こんにちは大阪市城東区鴫野駅から1分「けいクリニック」院長、精神科専門医の山下圭一です。
今回のコラムでは『不眠』、そして、睡眠に関連するお薬をテーマにお話をしていきます。
まず、睡眠薬は、眠れないときに用いられる薬です。夜の睡眠が十分に取れないと、日中に眠気や疲労感、集中力の低下などを感じやすくなります。ただ、どのくらいの睡眠が必要なのかは個人差がありますし、その時の体調などにもよります。
平均的には、睡眠が足りているかどうかの目安は7時間前後とされています。また、年齢が上がると睡眠時間が短くなってくることが一般的です。
日中の眠気がひどい、お休みの日に寝だめしないといられない、というようであれば、普段の睡眠がうまく取れていない可能性が高いでしょう。
不眠の中にも、①寝つきが悪い②何度も目を覚ます③起床時刻よりも早くに起きてしまう④ぐっすり眠れたという感じ(熟眠感)がしない、などのいくつかのパターンがあります。
不眠かな?と思ったら、まずは生活習慣を見直してみましょう。薬に頼らなくても不眠が改善することもあります。
例えば、
・寝る直前までスマホで動画やSNSをみている
・在宅勤務であるために一日中部屋の中にいて陽の光を浴びない
・お酒を飲んで眠る寝酒の習慣がある
これらの生活習慣を、
・朝起きたら日の光を浴びる
・外に出て散歩をする
・寝酒はしない
などに変えるだけでも、睡眠の質やパターンが違ってくるでしょう。
ただ、生活習慣を工夫してもどうしても眠りに満足できない、交替勤務や海外出張などの仕事の都合で規則正しい生活が難しい、といった場合に上手に薬を使って睡眠をとることは悪いことではありません。
睡眠薬について知り、自分に合う薬をうまく使いこなせるようになりましょう。
<目次>
- 1.睡眠薬の種類としくみについて知ろう
- 2.不眠に対して用いられる睡眠薬以外の薬
- 3.睡眠薬の使い方で気を付けることとは
- 4.昼間に睡眠薬を服むことについて
- 5.さいごに
- 1.睡眠薬の種類としくみについて知ろう
睡眠薬は、不眠のタイプや原因によって自分に合ったものを使うことがポイントです。主治医の先生と相談しながら、種類や量を調整しましょう。
いきなり強い薬、長く効く薬を使うのではなく、できるだけ依存性の少ない薬を、不眠のパターンに合わせて上手に使っていくことが大事です。
寝つきが悪いけれども、いったん入眠できれば朝までぐっすり眠れる、という場合は、作用時間が短い睡眠薬がよく使われます。一方で、入眠できたとしても途中で目が覚めてしまう、熟眠感がない、という場合は、作用時間のより長いタイプの睡眠薬が用いられます。
その他、睡眠覚醒リズムを整えるタイプの薬も発売されており、依存やふらつきなどの副作用のリスクが低いことから、高齢者でもより安全に使用できるとされています。
まとめると次の表のように分類ができます。
それぞれの睡眠薬について、特徴や注意点を見ていきましょう。
■ベンゾジアゼピン系
γ–アミノ酪酸(GABA)の作用を強めることで覚醒系への刺激作用を抑制し、眠りやすくするお薬です。鎮静や催眠の作用を担う受容体と、筋肉の緊張をほぐしたり不安を和らげたりする受容体の両方に作用しますので、不安や緊張が強い場合にも効果的です。
ただ、薬を飲んで眠ることに慣れてしまうとなかなか止めづらくなる、薬を飲まないと逆に眠れなくなる、内服後の記憶が飛ぶ、ふらついて転倒しやすい、などの副作用があります。使用は最低限とし、不眠が改善したら、減らし方について主治医と相談しましょう。
以下、よく処方されるベンゾジアゼピン系睡眠薬を一覧にしました。
作用時間が長い薬のほうが、朝までぐっすり眠れる効果はありますが、翌日の日中まで持ち越してしまうリスクも高くなります。
また、海外への持ち込みに申告や証明が必要な場合もありますので、海外旅行をする機会がある方は、ベンゾジアゼピン系睡眠薬の常用は避けたほうが良いかもしれません。
■非ベンゾジアゼピン系
作用時間としては、ベンゾジアゼピン系の超短時間型に近いと言えるでしょう。
GABA受容体の中の、鎮静や催眠の作用を担う受容体に作用します。ベンゾジアゼピン系よりは副作用は少ないとされているものの、ふらつきや依存性などには注意が必要です。
ゾピクロン(アモバン)・エスゾピクロン(ルネスタ)
作用時間は短時間ですので、翌日に残りにくいという点では使いやすいお薬です。ただ、苦味が残るのが苦手という方もいらっしゃいます。
また、内服後の記憶がなくなる(健忘)が起きることもありますので、その際は他の薬に変更したほうが良いでしょう。
ゾルピデム(マイスリー)
作用時間は超短時間型と同等ですので、翌日に残りにくいという点では、使いやすいお薬です。寝つきを良くする作用は強めですが、飲まないと眠れなくなる、内服後の記憶がなくなる(健忘)、などが比較的起きやすい薬ですので、注意が必要です。健忘が一度でもみられれば、他の薬に変更したほうが良いでしょう。
■メラトニン受容体作動薬
入眠のリズムをつかさどっているのはメラトニンという物質です。メラトニン受容体作動薬では、メラトニン受容体を刺激して体内時計を調整し、自然な睡眠をもたらします。
ラメルテオン(ロゼレム)
内服し続けることで、睡眠リズムのずれを改善する作用がありますので、睡眠リズムが崩れてしまったようなときによく用いられます。作用は強くはありませんし、飲めばすぐにリズムが整う薬ではありませんが、副作用が起こりにくく、安全性の高いお薬です。
ベンゾジアゼピン系ですとふらついて危険、“せん妄”を起こしやすい、という高齢者の方によく処方されます。即効性はないので、ある期間は続けて服むという使い方をするのが、他の睡眠薬と違うポイントです。
■オレキシン受容体拮抗薬
覚醒系の神経を抑えることで、寝つきを良くしたり、途中で起きにくくしたりする効果があります。ベンゾジアゼピン系に比べると、ふらつきや依存のリスクが少ないとされており、最近処方されることが増えています。
翌日まで効果が残ることがありますので、注意しましょう。その他の頻度の高い副作用としては“悪夢”があります。
スボレキサント(ベルソムラ)
併用が禁止されている抗生物質などがあり、要注意です。光や湿度の影響を受けるため、保存方法にも注意が必要で、一包化できないのが不便な点です。
レンボレキサント(デエビゴ)
併用が禁止されているお薬がないという点で、使いやすくなっています(併用して使う場合、注意を要するお薬はあります)。また、他のお薬と一包化することができるのも便利な点です。
- 2.不眠に対して用いられる睡眠薬以外の薬
ここからは、その他にもよく用いられる不眠に対するお薬の特徴をみていきましょう。
ジフェンヒドラミン塩酸塩(ドリエル・リポスミン)
第一世代の抗ヒスタミン薬(アレルギーに対する薬)です。副作用の眠気が、不眠に対しては作用として用いられています。市販薬として手に入るのはメリットですが、数回使用しても不眠が改善しない場合は、医師に相談しましょう。
トラゾドン(レスリン・デジレル)
抗うつ剤ですが、副作用としての眠気を利用して、少量で不眠に対して処方されることが多いです。睡眠の質を改善する作用があると言われています。
クエチアピン(セロクエル)
もともとは統合失調症の症状に対するお薬ですが、鎮静作用を利用して、不眠に対して少量使うことがあります。高齢者の方などで入院中や手術の後に“せん妄”と呼ばれる意識障害を起こすことがありますが、その治療のために処方されることもあります。
糖尿病の方には使ってはいけない(禁忌)お薬です。
クロルプロマジン(コントミン)・レボメプロマジン(レボトミン)
統合失調症の症状に対するお薬ですが、鎮静作用や催眠作用が強いので、少量で不眠に対して用いられることがあります。
不眠に対するお薬の効果や副作用は、薬の種類と量、個人差に影響されます。市販のお薬でも眠くてたまらないという方もいらっしゃれば、病院で処方された効き目の強い/長い薬でも、あまり効かないという方もいらっしゃいます。
お薬の効果は、不眠の原因や、その時の症状との相対的なものですので、ご自身の不眠のタイプについて、不眠が起きている原因について、主治医や薬局の薬剤師さんとよく話し合いながら、使い方の調整をしましょう。
- 3.睡眠薬の使い方で気を付けること
よくある副作用は、眠気、ふらつきです。夜寝る前に飲んだ薬が、朝起きた後も残っている場合に関しても、運転や注意力を要する作業をすることは危険です。ぜったいにやめましょう。
その他の副作用としては、記憶が一部飛んだり(健忘)、普段はしないような行動をしたり(奇異行動)することもあります。これらはアルコールと睡眠薬を両方飲んだ場合に起こりやすいとされていますので、睡眠薬を服用する場合は、アルコールは飲んではいけません。
睡眠障害のタイプに合わせて薬を選びますが、短時間型の睡眠薬は「飲まないと眠れない」となりやすいと言われていますし、長時間型の睡眠薬は翌日の眠気やふらつきが生じやすくなります。不眠に加えて、食欲が落ちていたり、今まで好きだったことに興味が持てなくなったりする場合は、うつ病の一症状として不眠が出ている可能性があります。その場合は、睡眠薬だけに頼り続けるのはあまりお勧めしません。うつ病の治療をすることで、睡眠が改善することもあるでしょう。
不眠の原因になる病気は、うつ病以外にもあります。
身体疾患に伴う不眠の特徴として、脚がむずむずする(レストレスレッグス症候群)、いびきや無呼吸(睡眠時無呼吸症候群)などがあります。睡眠時無呼吸症候群に対しては、ある種の睡眠薬は無呼吸を悪化させてしまうので、注意が必要です。
このように、不眠の原因によって治療方針が変わってきますので、よく主治医と相談しましょう。
- 4.昼間に睡眠薬を服むことについて
夜ぐっすり眠れなかったから、昼寝をするために睡眠薬を服用したいというご相談を受けることがありますが、睡眠リズムの乱れの原因になりますので、おすすめしません。
昼間に睡眠薬を服むと、眠気、ふらつき、頭痛、倦怠感などの不快感をより感じることが多いでしょう。
夜勤や交替勤務で睡眠の時間を一定に保つのがどうしても難しいという場合は、生活習慣の工夫や睡眠薬の使い方について、主治医に相談しましょう。工夫をしても不眠が改善しない場合は、診断書を提出して、夜勤や交替勤務を免除してもらえる場合もあります。
- 5.さいごに
必要な睡眠時間は個人差があります。「7時間は睡眠をとらなければ!」とこだわる必要はないのです。日中の眠気で困っていなければまずOKと考えましょう。そして、睡眠薬の必要性を考えるととともに、生活習慣の改善についても改めて考えてみましょう。
カフェインやタバコなどの刺激物を避け、入浴やストレッチなどリラックスできる工夫をしましょう。睡眠薬代わりの飲酒は睡眠の質を下げてしまいますので、やめましょう。寝酒よりも睡眠薬を上手に利用するほうが安全です。
また、眠れないで布団の中にいるのは逆効果ですので、眠気がきてから布団に入りましょう。布団の中で長く過ごし過ぎると、熟眠感が得られないことがあります。眠りが浅い時は積極的に早起きしましょう。
生活リズムを一定に保つ、ということも大切ですね。できるだけ同じ時間に起きましょう。休日に寝だめや朝寝坊をする方は多いのですが、翌日の朝がつらくなってしまいます。目が覚めたら窓ごしでもよいので日の光を浴びる、朝食を食べる、などして体内時計をリセットしましょう。
今一度“満足のいく睡眠がとれているか?”と、ご自身の眠りを振り返ってみてください。そして、答えが“No”であれば、睡眠について専門の医師などに相談してみると良いかもしれませんね。もちろん当院でも不眠に関するご相談をお受けすることも可能です。大阪市城東区「鴫野駅」徒歩1分のけいクリニックまでお気軽にご相談ください。