コラム

2022.09.25

眠れないという苦痛~不眠症とは~

こんにちは大阪市城東区鴫野駅から1分「けいクリニック」院長、精神科専門医の山下圭一です。

みなさんは、「眠れない」という経験をしたことはありますか?
例えば、海外旅行、特に帰国後の時差ボケは、数日から数週間にわたってつらいことがありますよね。
また、コロナ禍では、在宅勤務が続いて身体を動かさずにPCに向き合っている時間が長くなった、外に出かけず一日中家で過ごしてしまう、という理由での不眠が増えたように見えます。

眠れないつらさを経験すると、「なぜこれまであんなに苦労なく眠れていたのだろう」と、実感するでしょう。

寝よう寝よう、と頑張っても、逆に目が冴えてしまう・・・
心配ごとが頭の中をめぐり、気分はどんどん沈んでしまう・・・
明日は大事な用事があるのに大丈夫だろうか、と不安になる・・・

経済協力開発機構(Organisation for Economic Cooperation and Development: OECD)のデータ[i]によると、日本人の平均睡眠時間は世界的にみても短く、慢性的な睡眠不足の方が多いとされています。

睡眠不足は集中力の低下や疲労感につながるため、結局のところ効率が悪くなって時間がかかってしまい、さらに睡眠不足につながるという悪循環に陥りがちです。

日々の診療の中で出会う不眠のタイプとしては、

  • ・夜勤、シフト勤務、夜遅くまでゲームをするなどの生活習慣の影響が強いもの
  • ・朝、起きるべき時間を過ぎて起きている、日中の昼寝時間が長い、など、睡眠時間を合わせると短くはないが、覚醒と睡眠のリズムが乱れているもの
  • ・ストレスによって起こる短期間の不眠
  • ・たばこやカフェイン、アルコールなどの影響

などがあります。

いくつかの原因が重なっていることもありますし、シフト勤務やストレスなどは、不眠の原因だったとしても、すぐに取り除くが難しいこともあるため、原因を見つけて解決すればよい、という単純なものではありません。

今回は、不眠の改善のために、生活習慣の工夫でできること、病院受診で相談できることについて、順に解説していきましょう。

 

<目次>

  • 1.眠れなくなる原因、抱えていませんか?
  • 2.眠れないときの対策~生活習慣の工夫~
  • 3.眠れないときの対策~病院に受診する~
  • 4.不眠の薬について
  • 5.さいごに
  • 1.眠れなくなる原因、抱えていませんか?

私たち医師は、「眠れない」という患者さんに会ったときに、まず問診を行います。

まずは、睡眠のどの段階で妨げられているかによって、

  • ①寝つきが悪い(入眠困難)
  • ②何度も目を覚ます(睡眠維持困難)
  • ③起床時刻よりも早くに起きてしまう(早朝覚醒)

④ぐっすり眠った感じがしない(熟眠障害)

のように分けて、治療方針を立てていくことがあります。

また、睡眠の原因を「5つのP」で整理することがあります[ⅱ]
Physical(フィジカル)、すなわち、痛みなどの身体的要因です。その他にも、睡眠時無呼吸症候群やアトピー性皮膚炎など、睡眠を妨げやすい身体の病気はたくさんあります。

Pharmacological(ファーマコロジカル)、薬理学的要因で、内服薬やカフェイン、タバコなどが含まれます。常用している薬がある場合は、薬が原因で不眠になっている可能性もありますので、主治医に相談してみましょう。カフェインやタバコについては、摂取のタイミングを工夫したり、不眠が改善するまではいったん止めたり、という工夫が必要でしょう。

Physiological(フィジオロジカル)は生理学的要因で、体温調節などの影響です。その他にも、時差ボケやシフト勤務の影響による不眠も、生理学的要因といえるでしょう。

Psychiatric(サイキアトリック)は精神医学的要因で、うつ病などの精神科の病気があり、それにより不眠が起きている場合です。

Psychological(サイコロジカル)とは心理学的要因で、心配しすぎて眠れない、というような場合です。上記の精神疾患がなくても起こることがあります。

これらからわかるように、時には不眠の背後に、心身のご病気が隠れていることがあるので、要注意です。

平均的な睡眠時間は、成人でおよそ7時間と言われていますが、日中の眠気で困っている、休日に寝だめしないと身体がもたない、という状況であれば、何らかの原因で睡眠が妨げられている可能性が高いと考えられます。

次に述べる生活習慣の振り返りを行い、それでも改善しなければ、医療機関に相談することも検討してみてください。

 

  • 2.眠れないときの対策~生活習慣の工夫~
  • 上手く眠れていないなと思ったら、まずは生活習慣を見直してみましょう。それだけで、不眠が改善することもあります。

    まずは、朝起きたら、カーテンを開けて、太陽の光を浴びましょう。自然に目覚められるように、カーテンを開けて寝る、遮光カーテンから普通のカーテンに変える、という人もいらっしゃいます。
    日の光を浴びることで、1415時間後にメラトニンという眠気を誘うホルモンの分泌が始まり、夜の自然な眠りを助けてくれます。

    起きる時間については、休日もそうでない日も、できるだけ揃えましょう。
    睡眠不足の方は、休日に寝だめをしている場合も多いのですが、時差ボケに似た状況を引き起こし、逆に翌日の朝がつらくなってしまいます。

    また、朝食をきちんと摂ることは、身体を目覚めさせてくれるので、おすすめです。
    日中は外に出て散歩など軽い運動をすることを心がけてみましょう。特に、定期的に中等度以上の運動をすることは効果的と言われています。

    次に、昼食の後は眠気を感じるという方が多いですが、これは満腹の影響というよりは、自然なリズムの一環です。短時間の仮眠や、軽く体を動かすことで、眠気とうまく付き合いましょう。
    短時間の仮眠はその後のパフォーマンスも上げてくれます。一方で、仮眠を取りすぎると、夜の寝つきが悪くなりますので、必ずアラームをセットして、1520分程度にしておきましょう。

  • 仮眠を取るタイミングも大事です。夕方以降に仮眠をとると、寝つきが悪くなりますので、夕方以降に眠い時は、“仮眠は我慢して、その日は早めに寝る”ほうが良いでしょう。

    それとタバコやカフェインなどの刺激物を避けましょう。カフェインの効果は45時間程度続くといわれていますので、16時以降の摂取は避ける、デカフェのコーヒーにする、などの工夫をしてみましょう。

  •  

    夕食は、早すぎても遅すぎても眠りには良くありません。寝る前に食事を摂ることで、消化が終わっていないのに睡眠に入ると、深い睡眠がとりづらくなります。

    一方で、お腹が空いて眠れないという経験をした方も多いでしょう。夕食の時間が早すぎて空腹になると、オレキシンという覚醒作用のあるホルモンの分泌が増えると言われています。よって、夕食は、寝る23時間前にとるのがちょうどよいでしょう。

    眠る前の行動の工夫として、刺激制御療法[ⅲ]があります。

    刺激制御療法では、眠くなるまで寝室に行かない、寝室は睡眠以外に使用しない(例えば、読書やスマホをみるなど、睡眠以外のことを寝室で行わない)、1520分くらいで寝付けなければ別の部屋でくつろいで過ごし、眠くなったら寝室に戻る、ということが推奨されています。布団の中で長く過ごし過ぎると、熟眠感が得られないことがあります。

    スマホを見るのを我慢するというのは、我々にとって難しいことかもしれませんが、良い睡眠のために、少しだけ我慢してみましょう。

  •  

    代わりに、眠りに着く準備として、入浴やストレッチなどリラックスできることをしてみましょう。ちなみに、入浴は布団に入る直前ではなく、1-2時間前のほうが良いとされています。

    朝とは逆に、夜は強い光を浴びないように気を付けることが大事です。部屋の照明を落とす、間接照明を使う、などの環境の工夫も大事です。

    アルコールについては、寝つきを良くしてくれる一歩で、睡眠の質を下げてしまいますので、やめましょう。たとえ寝付けても、夜中に起きてしまう、朝早く起きてしまう、ということになりやすく、疲れが取れにくくなってしまいます。

    このように、ご自身の睡眠の習慣を振り返り、改善できるところは改善していきましょう。

    自分の睡眠の状況を客観的にみるために、睡眠日誌[ⅳ]も役に立ちます。実は眠れているのに、「眠れていない」と思いこんで苦しんでいる方がいらっしゃるからです。

    睡眠日誌では、布団に入った時間、入眠の時間、目が覚めた時間、布団を出た時間、などを記録することで、客観的に自分の睡眠について振り返ることができます

 

3.眠れないときの対策~病院に受診する~

DSM-5[ⅴ]という診断基準では、不眠は“睡眠‐覚醒障害群”に分類されています。

頻度としては、1週間に3回以上眠れない夜があれば、不眠障害と診断される可能性が高くなります。

睡眠の環境や生活習慣に問題がないにもかかわらず、寝付けない、途中で目が覚める、朝早く目が覚める、などの自覚症状があり、集中力や注意力の低下、睡眠不足に伴う頭痛などの症状や睡眠に対する不安などがある場合は、専門家への相談を考えたほうがよいでしょう。

また、不眠だけでなく他の心身の不調を伴っていないか、という点についても、医療機関での相談が望ましいでしょう。問診や必要に応じて身体の検査も組み合わせながら、不眠の診断と治療をしていくことになります。

不眠に対しては、薬物療法の前に、上記で述べたような生活習慣についてのアドバイス(睡眠衛生教育)や、睡眠に対する考え方の工夫(認知行動療法)などが推奨されています。
薬物療法については、寝付けないだけなのか、途中で起きてしまうのか、眠りの質が悪そうなのか、など、睡眠障害のタイプに合わせて薬を選びます。

睡眠薬に抵抗がある方は多いのですが、適切に必要な期間だけ使えば危険な薬ではないですし、寝酒としてアルコールを摂取するよりは、睡眠薬のほうがまだ安全と言われています。

一方で、効果の短い睡眠薬は「飲まないと眠れない」となりやすいと言われていますし、効果の長い薬は翌日の眠気やふらつきが生じやすくなります。

不眠の原因によって、薬以外の工夫がどのくらい必要か、他に治療が必要な病気はないのか、どのようなタイプの薬を使うか、など治療方針が変わってきますので、よく主治医と相談しましょう。

 

4.不眠の薬について

ここ数年、より依存しにくい、自然な睡眠が得られる薬が手に入るようになりました。不眠で困って受診したときに、使われることの多いお薬をいくつか紹介しましょう。(ちなみに以前、このコラム内でも不眠の薬をテーマとして取り扱ったこともあります。ご興味のある方はこちらからご覧ください。)

ラメルテオン(ロゼレム)
体内時計に関わる、メラトニンの受容体に作用します。睡眠と覚醒のリズムを整える作用が期待できます。

スボレキサント(ベルソムラ)・レンボレキサント(デエビゴ)
覚醒に関わるオレキシンの受容体の遮断効果により、眠気を引き起こします。

トラゾドン(レスリン・デジレル)
抗うつ剤に分類されますが、最近は抗うつ効果よりも睡眠の質を改善する効果を期待して処方されることが増えています。

その他、ベンゾジアゼピン系睡眠薬やその類似の薬(ゾピクロン、ゾルピデム等)についても、一般的に処方されています。

薬の種類や飲み方によっては、依存性の心配があったり、アルコールとの飲み合わせが悪かったり、ふらつきやすくなるため転倒の危険性、怪我の危険性が高まったりなど、リスクのある薬ではあります。

睡眠薬は、必要最低限の量と期間で、主治医と相談しながら、慎重に用いましょう。
薬を用いる場合でも、不眠の原因によって治療方針が異なります。また、薬の効果や副作用は、薬の種類と量、個人差に影響されます。

家族や友人に処方された不眠の薬をもらって内服する、ということは、危険ですので、絶対に行わないでください。

 

  • 5.さいごに

  • 昨今、睡眠については注目が高まっており、パフォーマンスを向上させるための睡眠本や、睡眠の認知行動療法など、薬物療法以外の情報へのアクセスはしやすくなってきています。

    また、睡眠アプリなど、自分の睡眠をモニタリングするためのツールも使いやすくなっています。

    今回ご説明したようなことを、完璧に守る必要はありません。取り入れやすいところからやってみて、「よく睡眠が取れると、こんなに体が楽」という体験をしてもらえたらと思います。
    そして、しっかり睡眠をとって、コンディションを整えることを、みなさんに大切にしてもらえたら、嬉しく思います。

当院でも、不眠に関するご相談や睡眠薬の服用に関するご相談などをお受けすることが可能です。日常生活の中の眠りに関するお悩みなどございましたら、大阪市城東区「鴫野駅」徒歩1分のけいクリニックまでお気軽にご相談ください。

 

参考文献
[ⅰ] OECD. Stat (Time use) https://stats.oecd.org/Index.aspx?DataSetCode=TIME_USE (参照 2022-09-25).
[ⅱ] 西野精治(2020). 睡眠障害 現代の国民病を科学の力で克服する 角川新書
[ⅲ] BootzinRR : StimulusControlTreatment for Insomnia.Proceedings of the 80th Annual Con− vention of the American Psychological Association.Honolulu,Hawaii,395− 396,1972
[ⅳ] 国立精神・神経医療研究センター 睡眠日誌について https://www.ncnp.go.jp/hospital/sleep-column9.html(参照 2022-09-25).
[ⅴ] 高橋三郎、大野裕監訳(2014). DSM-5 精神疾患の診断・統計マニュアル. 医学書院