コラム

2022.11.15

うつ病の治療中の過ごし方~エネルギーを蓄えるためには~

こんにちは大阪市城東区鴫野駅から1分「けいクリニック」院長、精神科専門医の山下圭一です。

うつとは、「これ以上ムリをしてはいけない」という身体が発する「非常ベル」だ[i]、というたとえがあります。
“うつ”という言葉は、“うつ状態”という気分が落ち込んだ状態を示す場合と、“うつ病”のように、病名を示す場合があります。

今回は、病名に関わらず、“うつ状態”の療養について、状況や症状の程度によって、どのような工夫が必要かについて解説したいと思います。

うつ状態になったときの、治療の一つが“十分な休息をとること”です。ご病名が何であっても、休息の重要さは共通です。
ただ、上手な休息の取り方をしないと、なかなかうつ状態は改善しません。

なかなか良くならない方では、「やらなければならないこと(仕事・家事・学業)があるので、ゆっくり休んでいる暇はない」と無理をしてしまう、休むことに罪悪感を感じて実はゆっくり休めていない、という場合があります。

また、本当に疲れすぎてしまうと、「適切な休息の取り方がわからない」という状態になることもあります。

たとえ仕事や学校を休んで、何もしないで横になっていたとしても、頭の中でぐるぐると悩みごとについて考え続けているのでは、心身共に休まらないのです。

休み方のコツを知って、疲れを解消し、エネルギーをチャージしましょう。

[i] 田中圭一(2017.うつヌケ うつトンネルを抜けた人たち 角川書店

 

<目次>

  • 1.うつ状態に早めに気づく
  • 2.うつ状態に対する治療
  • 3.うつの療養のポイント
  • 4.社会復帰に向けて
  • 5.おわりに
  • 1.うつ状態に早めに気づく

みなさんは、“うつ状態”を経験したことはあるでしょうか?

うつ状態まで至らなくても、“ゆううつな気分”を経験したことがある方は多いでしょう。

うつ状態になると、以下のような兆候が現れます。

  • ・気分が落ち込む
  • ・何に対しても興味がなくなる
  • ・食べられなくなり、体重が減る
  • ・眠れない、あるいは、眠りすぎる
  • ・自分に価値がないように感じる
  • ・自分を責める
  • ・集中力や思考力が低下する
  • ・消えてしまいたい、死にたい、と考える
  • ・頭痛、消化器症状などの、身体の症状

本当に体調が悪くなると、調子がどのくらい悪いのか、自分でも分からなくなってしまうことがありますので、早い段階で気づいて、休息をとったり専門家に相談したりすることが大切です。

早い段階で気づくためには、うつ状態の前段階である、ストレスがかかった時に心身に現れるサイン(ストレス反応)に気づけるようになることが大事です。

次に示すのは、ストレス反応のチェックリストです。当てはまるものがないか、チェックしてみましょう。

これら以外にも、身体、こころ、行動、考え方に、様々な変化が起こりえます。

ストレス反応は、一時的なものであれば、ストレスに対する心身の正常な反応です。ストレス反応が出ている段階で気づいて、うまく休息をとることができれば、本格的に調子を崩すことの予防になります。

 

  • 2.うつ状態に対する治療
  •  

    いくつかのストレス反応が出ている、それらが長く続いている、そして苦痛が大きい場合や日常生活に支障をきたしている場合は、専門家の力を借りましょう。

    うつ状態で病院にかかる場合、“精神科・心療内科”が第一選択です。

    “うつ状態”といっても、原因は様々であり、原因によって適切な療養の方法、治療方針が変わってきます。

    初めの診断が違ってしまうと、適切な治療にたどり着くまでに回り道をしてしまうこともあります。

    例えば、もしストレスが原因である可能性があるならば、ストレスから距離を置くことが治療になります。仕事のストレスでつらくなっている場合は、仕事を休むという方法が取られることが多いでしょう。
    これは、必ずしもストレスから逃げるという訳ではありません。

    いったん休んで、エネルギーをチャージすることで、再びストレスに立ち向かう、ストレスがあってもやっていく、という方向に進みやすくするのが目的です。

    ストレスから距離を置いても、うつ状態が良くならない場合は、“うつ病”など、薬の治療が必要なご病気の可能性があります。双極性障害や統合失調症のうつ状態の場合も、休息に加えて、薬物療法が必要になることが多いでしょう。

    上記に述べたような、うつ状態の診断や治療方針の決定に一番慣れているのは、精神科医です。
    ただ、すぐに予約が取れない場合(精神科・心療内科の初診の予約は1ヵ月くらい待つことがあります)や、受診に抵抗を感じる場合は、かかりつけの医師に相談するという方法もあります。

    総合診療や家庭医を標榜している医師であれば、軽度のうつ状態であれば、治療の相談にのってもらえます。

    精神科・心療内科に比べると、予約がなくても受診できる医療機関が多いですし、かかりつけ医として、生活の状況やこれまでかかったことのある病気についての情報があれば、治療がスムーズに進みやすいでしょう。

    また、かかりつけの医師が、精神科への受診が望ましいと判断した場合は、信頼のおける医療機関に紹介してもらいやすくなります。

    うつ状態の治療としては、ストレスから離れるための環境調整、薬物療法、心理療法、の組み合わせで行われることがほとんどです。

    薬物療法としては、気分や意欲に関わるとされている、セロトニンやノルアドレナリンなどの脳内神経伝達物質に働きかけるタイプの薬がよく使われます。

    また、睡眠障害に対しては睡眠薬、不安に対しては抗不安薬、のように、症状に対処するため(対処療法)の薬が使われることもあります。

    認知行動療法などの心理療法には、薬物療法と同じくらいの効果があるという研究結果[i]もありますので、受けたいという方は、心理療法を提供している医療機関を探してみましょう。

    かかりつけの医療機関と別に、カウンセリングルームなどで受けることも可能ですが、その際は主治医の先生に相談してからにしましょう。

    どの治療をどのタイミングで行うのが適切かについては、そのときの症状や診断名、治療の環境によって変わってきます。

    例えば、起き上がるのも大変なぐらいのうつ状態の時に、頻繁にカウンセリングに通うというのは負担になるでしょう。そのような場合は、まず休息第一で過ごし、少し元気になってから、カウンセリングに取り組むのが良いでしょう。

    「これさえすれば、うつは良くなる!」という手っ取り早い療養方法というのはありません。睡眠、環境調整、もののとらえ方、など地道な取り組みが必要です。

  •  

    [i] Amick, H. R., Gartlehner, G., Gaynes, B. N., Forneris, C., Asher, G. N., Morgan, L. C., … & Lohr, K. N. (2015). Comparative benefits and harms of second generation antidepressants and cognitive behavioral therapies in initial treatment of major depressive disorder: systematic review and meta-analysis. Bmj351.

 

3.うつの療養のポイント

次に、医療機関で行う治療以外に、自分でできる休息の取り方について、アドバイスをしていきます。

まず、睡眠です。

「疲れているのに眠れない」という経験をしたことがある方も多いと思います。
うまく眠れない場合は、一時的に睡眠薬などの手を借りることは、悪いことではありません。
逆に、療養のはじめの頃は、寝ても寝ても、眠い、という風になることもあります。無理を重ねて、身体に疲労が蓄積していたり、慢性的な睡眠不足が積み重なっていたりしたせいかもしれません。
寝ても寝ても眠い時期は、昼夜逆転にならないように気を付けながら、休息中心の生活でよいでしょう。

次に、適度な睡眠がとれるようになり、エネルギーが充電されてきた感覚が戻ってきたら、“やらなければならない”ことを減らし、好きなことをする時間を増やしてみましょう。

好きなことがわからなければ、心地よい、と感じることをしてみましょう。
好きな音楽を聞く、好きな俳優さんの出ている映画を見る、好きなお菓子を食べる、スーパー銭湯や温泉に行く、など、自分が少しでも心地よいと思えることをしてみましょう。
心地よいことをしているときの身体の感覚がつかめてくると、好きなことと苦手なことが、少しずつわかってきます。

苦手なことを一切避けて生きていくことは難しいでしょうが、自分の好きと苦手を知っておくと、苦手なことを我慢した後には好きなことをしてバランスをとる、ということができるようになります。

次に、マルチタスクをやめて、シングルタスクを切り替える、という過ごし方を心がけてみてください。
せっかくの休日なのに、ごろごろしながらスマホでSNSや動画を見てしまう、食事中もTVを見ながら、なんとなく食べている。
そこには、ネガティブな情報もたくさんあり、選択する間もなく、目に入ってきます。

休息=(イコール)何もしないでゴロゴロする、ということではないのです。疲れや睡眠不足を感じて、週末は家の中でゴロゴロして過ごしても、身体にエネルギーが満ち溢れるような感覚はあまり得られないでしょう。

インターネットやTVに触れる時間は決めておき、“ながら”でだらだらと観つづけないようにしましょう。食事、趣味、家事などの時間についても、“ながら”ではなく、一つのことに集中するように心がけてみましょう。

在宅ワークや自粛などで家で過ごす時間が増え、運動量が減り、マルチタスクをこなしながら、ニュースを観て不安になる、という生活は、“うつになりやすい”生活、といえるでしょう。

一つ一つ見直して、“うつになりにくい生活習慣”を身につけましょう

 

4.社会復帰に向けて

休息や治療により体調が安定してくると、社会復帰のことが気になってくる時期です。

療養中は、自分の好きなこと、心地の良いことを思い出す時間でもありますから、寝たい時に寝て、好きなことをして過ごす、というので構わないのです。

ただ、睡眠のリズムは、いったん夜型になると、元に戻すのが難しいため、療養中もできるだけ変えないことをおすすめします。

その他、社会復帰を考えるときに、準備が必要なことについて、ご説明しましょう。

まずは、生活リズムと日中の活動レベルを、復帰後のスケジュールに少しずつ合わせていきましょう。

例えば、会社を休職している方であれば、

  • ・会社に行くときと同じ時間に起きるようにする
  • ・会社に行くときと同じ時間に起きられる時間に寝る
  • ・眠りが浅い、夜中に目が覚めてしまう、など睡眠に問題がありそうなら、早めに主治医に相談する(お薬の調整に数週間かかることがあります)
  • ・頭痛やお腹の調子が悪い、など症状がまだあるなら、休んでいるうちに内科などにかかって必要な検査を受けておく
  • ・出勤や退社の時刻の電車に乗ってみる
  • ・日中は、デスクワークの方であれば机に向かって資格の勉強などに取り組んでみる
  • ・身体を動かす仕事の方であれば、散歩や筋トレなどを行い、体力をもとに戻す
  • ・家族以外の人と交流する機会を持つ

などです。

ご自分でこれらのことをやっていくのが難しそうであれば、リワーク[i]の制度を用いるのもよいでしょう。

復帰の準備としてもう一つ大事なのは、“うつになった要因を分析して、繰り返さないためにできることを考える”ことです。

仕事が忙しすぎた、人間関係のストレスがあった、など、要因は様々ですし、複数の要因が重なっていることもあります。
また、取り除くことが難しいものもあります。

自分の職業人生の棚卸をし、何が大事なのか、そのために譲ることができる点は何か、等について、整理してみましょう。そして、主治医や家族、友人から客観的なアドバイスをもらうようにしましょう。

元々の職場のストレスが大きい場合、異動を希望するならば、主治医に相談をして診断書にその旨を記載してもらったり、産業医の面談を受けたり、人事との相談をしたり、というプロセスが必要になります。
希望通りの異動が叶わない場合など、取り除くのが難しいストレスもありますので、どのように向き合っていくかについて、復帰の前に考えておきましょう。

[i] 一般社団法人日本うつ病リワーク協会 リワーク施設一覧

https://www.utsu-rework.org/list/

 

  • 5.おわりに

  • うつの療養は、その人の症状や状況に合わせて、無理せずにできる範囲のことをやっていくことが大事です。

    焦れば焦るほど、うまく休むことができなくなりがちですから、いったんのんびりしようと覚悟を決めるほうがよいでしょう。

    焦りやすい人、ついつい頑張りすぎてしまう人は、主治医や周りの人の意見を聞いて、なるべくゆっくり過ごすようにしてみましょう。
    休み方が上手になれば、短期間の休みでも疲労を解消し、リフレッシュできるようになります。

    忙しすぎる、頑張りすぎる皆さんに、休むことには価値がある、ということを大事にしてほしいと思います。

  • 当院でも、うつに関するご相談や療養に向けたアドバイスなどを行っております。大阪市城東区「鴫野駅」徒歩1分のけいクリニックまでお気軽にご相談ください。