コラム

2023.01.10

気分安定薬の効果・分類・特徴について

こんにちは大阪市城東区鴫野駅から1分「けいクリニック」院長、精神科専門医の山下圭一です。

気分というのは、状況によって変化するのが当たり前で、つらいことがあれば悲しい気分になる、嬉しいことがあればよい気分になる、というのは普通のことです。 

ただ、悲しい気分と良い気分の変動の幅が大きかったり、気分が落ちている状態(うつ状態)や気分が高い状態(いわゆる躁状態)が長く続いたりすると、ご本人や周りが困ることが起こります。

例えば、うつ状態では、動けなくなって何日も布団の中で過ごし、学校にも会社にも行けなくなったり、「消えてなくなりたい」と自分を傷つけるような行動をとってしまったり、ということがあります。

また、躁状態では、イライラして大事な人と喧嘩をしてしまったり、ネットショッピングで何十万も使ったり、何でもできるような気になって会社を設立してみたり、ということが起こりえます。

このような状態になると、ご本人にとっても、周りの人にとっても、たいへんです。

上記で説明した“躁状態”“うつ状態”というのは、“双極性障害”や“統合失調感情障害”というご病気でみられる症状です。

これらは病気の症状ですから、治療により良くなります。そこで、早めに受診をして診断を受け、適切な治療を行うことが、とても大事になってくるのです。

 

<目次>

  • 1.気分安定薬が処方される病気について
  • 2.気分安定薬の分類と特徴
  • 3.気分安定薬などの薬物療法以外で大切なこと
  • 4.まとめ
  • 1.気分安定薬が処方される病気について

代表的なものが、双極性障害です。

双極性障害では、躁病/軽躁病エピソードと抑うつエピソードがみられます。

精神科医が、気分の変動について診察するとき、躁病/軽躁病エピソードや抑うつエピソードがあるか、というのを丁寧に聞いていきます。また、患者さんの様子や話のスピード、声の大きさなども、観察しています。 

抑うつと躁が混合して、気分は落ちているのにイライラしやすい、という状態も起こることがあります。
上記のような症状は、甲状腺機能低下症や甲状腺機能亢進症のような身体の病気、薬やアルコールなどの物質が原因でも気分の変動は起こりますので、他の原因を除外したうえで、診断を行います。

 

また、双極性障害は、Ⅰ型とⅡ型の2つがあります。

Ⅰ型の双極性障害では、少なくとも1週間、気分が持続的に高揚し、開放的になったり怒りっぽくなったりするという明らかな躁病エピソードが見られます。急に悪化することがあり、治療が追いつかず入院が必要になることも多いです。

Ⅱ型の双極性障害は、うつの経過中に、軽い躁状態(軽躁状態)がみられます。
軽い躁状態に関しては、ご自身で気づいていない場合もありますので、ご家族など周りの人の意見を聞くことが大切です。

双極性障害に関しては、診断が初めからつくのが難しいことも多く、うつ状態で発症して、うつ病として治療されているなかで躁状態/軽躁状態があらわれ、“うつ病”から“双極性障害”に診断が変わることもよくあります。

双極性障害では、躁状態の印象が強いために、周囲の人は躁状態を懸念しますが、多くの場合はうつ状態の時間が長く、ご本人の苦痛は計り知れないものです。

 

双極性障害の抑うつエピソードに対しては、抗うつ薬ではなく、気分安定薬による治療が推奨されています。クエチアピンなどの抗精神病薬を併用することもあります。一方で、躁病エピソードに対しては、炭酸リチウムや抗てんかん薬、抗精神病薬が用いられます。

双極性障害は自殺のリスクがある疾患ですし、危険な飲酒の習慣があれば、さらにリスクが高まります。ガイドライン上は、基本的に、心理社会的治療のみによる治療は推奨されていません。

 

ここまでは、双極性障害を中心にご説明をしてきましたが、双極性障害以外にも、気分安定薬が処方されるご病気があります。

統合失調感情障害というのは、双極性障害のように気分の波が出るご病気ですが、幻聴や妄想などの統合失調症の症状も伴います。気分の波が落ち着いている時にも、幻覚や妄想があると、診断がつくことがあります。双極性障害や統合失調症との鑑別が難しい場合が多いのですが、病名にこだわらず、症状を和らげるために必要な薬物療法をすることが大切です。

境界性パーソナリティー障害は双極性障害との見分けが難しく、気分安定薬によって気分の波が穏やかになったり衝動性をコントロールしやすくなったりすることがあります。また、認知症の方が、怒りっぽい、イライラしている、等の場合にも、気分安定薬によって症状がやわらぐこともあります。

つまり、気分安定薬が処方されているからといって、必ずしも双極性障害という訳ではないのです。最近では、非定型抗精神病薬のみによる双極性障害の治療についても研究が進んでおり、今後ガイドラインなどの変更がある可能性があります[i]

このように、気分安定薬が処方されるご病気はたくさんありますし、鑑別診断が難しい場合もありますので、病名にこだわりすぎず、「何に困っていて、その解決のために何が必要なのか」を考えましょう。

[i] 日本うつ病学会治療ガイドライン Ⅰ双極性障害

 

  • 2.気分安定薬の分類と特徴
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  • 双極性障害の診断がつけば、抑うつ状態だとしても、躁状態だとしても、どちらでもない安定した状態だとしても、気分安定薬による治療が推奨されています。

    双極性障害の抑うつエピソードに抗うつ薬が用いられる場合はゼロではないのですが、躁状態を引き起こしたり、躁うつの波のサイクルが短くなってしまったりというリスクがありますので、かなり慎重に用いられます。抗うつ薬のみで治療をすることはなく、気分安定薬や抗精神病薬との併用が必要です。

    気分安定薬を分類すると、抗躁薬と抗てんかん薬にわかれます。

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    抗躁薬というのは炭酸リチウム(リーマス)です。炭酸リチウムは、躁状態を抑える以外にも、抑うつエピソードに対しても用いられることがあります。自殺リスクを下げるというエビデンスもあります[i]

    抗てんかん薬としては、バルプロ酸(デパケン、セレニカ、バレリン)、カルバマゼピン(テグレトール)、ラモトリギン(ラミクタール)、クロナゼパム(リボトリール、ランドセン)といった薬があります。

    妊娠や出産に関しては、より安全なお薬に変更するほうがよい場合があるため、妊娠の希望があるときは、必ず主治医に相談をしましょう。産婦人科と精神科で連携できると安心です。

     

    それぞれのお薬の特徴をみていきましょう。

    炭酸リチウム(リーマス)
    全ての病相で推奨されている薬剤です。
    服用する場合には、血中濃度のモニタリングや副作用の評価が必要になってきます。治療効果のある血中濃度と、リチウム中毒を生じる濃度が近いため、高齢者では脱水から血中濃度が上昇し、リチウム中毒を起こしやすく、注意が必要です。

    副作用としては、手指のふるえ、尿の量が多くなる、記憶障害、体重増加、消化器症状などがあります。

    リチウム中毒になると、上記に加えてろれつが回らない、ふらふらする、などの症状が現れる場合もあります。心配な場合は、すぐにかかりつけの病院に相談をしましょう。

    その他の有害事象として、甲状腺機能障害や副甲状腺機能障害、腎機能障害を引き起こすこともあるため、定期的に血液検査を行い、血中濃度以外にも、腎機能や甲状腺機能をチェックすることが必要です。

    解熱鎮痛剤として一般的なロキソニンなどの非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)や、アンギオテンシンⅡ受容体拮抗薬というタイプの降圧薬は、リチウムの腎臓からの排泄を阻害し、リチウム中毒の危険性が高まるので、併用はしないようにしましょう。

    複数の病院を受診している場合や救急受診する場合は、お薬手帳などでリチウムを内服していることを伝えるように気を付けましょう。

    また、不整脈の引き金になることもあるため、リチウムを投与する場合には心臓の検査や心疾患の家族歴を医師と共有することも大切です。

     

    バルプロ酸(デパケン、セレニカ)
    抗てんかん薬ですが、気分安定作用があり、双極性障害の躁状態に対して用いられることがあります。リチウムが効きにくいとされている再発回数が多い患者さんにも効果を発揮しやすいという研究があることです[ii]
    また、“ラピッドサイクラー”と呼ばれる、躁とうつを短期間で繰り返す場合の治療効果もあるとされています。

    副作用として、嘔気、血小板減少や白血球減少、頭痛、体重増加、脱毛、などがあります。高アンモニア血症では意識障害を起こすことがありますので、要注意です。

    バルプロ酸もリチウム同様、血中濃度をモニタリングしながら使うことが必要です。

    躁病エピソードの急性期と維持期では、必要な投与量が変わってくることもあります。有害事象に注意しながら、必要な場合には多めの量を処方することが、病状を早く良くするために大切です。

     

    カルバマゼピン(テグレトール)
    抗てんかん薬ですが、双極性障害の躁状態に対して用いられることがあります。他のお薬で治療が難しいような興奮や攻撃性をやわらげてくれることがあります。

    副作用としては、めまい、眠気、嘔気、薬疹などがあります。肝機能障害や汎血球減少(白血球、赤血球、血小板が減少する)を起こすことがありますので、血中濃度に加えて有害事象が出ていないかに注意しながら使うことが大事です。

     

    ラモトリギン(ラミクタール)
    双極性障害のうつ病相の治療と予防、特に双極性障害の維持期に用いられます。 

    有害事象により飲み続けるのが難しいということが起こりにくいのはメリットですが、注意しなければならない副作用として、皮疹があります。
    皮膚粘膜眼症候群(スティーブンス・ジョンソン症候群)や中毒性表皮壊死融解症(ライエル症候群)と呼ばれる重篤な皮膚症状が出ることがあるため、少量から開始し、少しずつ量を増やすことが大事です。
    その他の副作用は、肝障害、汎血球減少(白血球、赤血球、血小板が減少する)、眠気、めまいなどです。

     

    クロナゼパム(リボトリール)
    ベンゾジアゼピン系薬物で抗けいれん薬として用いられることもありますが、双極性障害に対しては、鎮静作用や抗不安作用、睡眠の補助作用を期待して処方されることがあります。 

    クロナゼパムだけで双極性障害を治療するということはありませんが、急性期に一時的に用いたり、維持治療の補助薬として処方されたりすることがあります。

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    [i] Cipriani, A., Pretty, H., Hawton, K., & Geddes, J. R. (2005). Lithium in the prevention of suicidal behavior and all-cause mortality in patients with mood disorders: a systematic review of randomized trials. American Journal of Psychiatry162(10), 1805-1819.

    [ii] Swann, A. C., Bowden, C. L., Calabrese, J. R., Dilsaver, S. C., & Morris, D. D. (1999). Differential effect of number of previous episodes of affective disorder on response to lithium or divalproex in acute mania. American Journal of Psychiatry156(8), 1264-1266.

 

3.双極性障害の治療で大切なこと

ここまで、気分安定薬の効果・分類・特徴について、双極性障害というご病気の場合を中心に説明しましたが、双極性障害の治療のためには、薬物療法のほかに日常生活の過ごし方もとても大切だということを付け加えておきます。
例えば、睡眠をしっかりとる、大きなストレスを避ける、無理をしない、などです。

まずは、睡眠についてですが、ご病気の悪化は、睡眠の変化に現れることが多いので、普段のご自身の睡眠をモニタリングすることが役に立ちます。
また、質の良い睡眠をとるために、生活リズムを整える、夜更かししない、夜にスマートフォンやパソコンを使いすぎない、などの工夫も役に立つでしょう。
カフェインやアルコールの摂取についても、注意が必要です。カフェインもアルコールも摂り方によっては睡眠を妨げますし、イライラなどの症状を引き起こすこともあります。

大きなストレスに関しては、仕事の忙しさやプライベートでの大きな出来事など、避けられないことも多いのですが、「ストレスを感じたら無理しないように生活しよう」「いつもより睡眠や休息の時間を多めにとろう」と心がけることが大事です。

睡眠以外にも、ご自身の体調をモニタリングすることで、気分の変動が起き始めた時に早めに気づき、悪化を防ぐことができる場合もあります。

どのようなきっかけやタイミングで躁やうつに傾きやすいのか、主治医や周りの人のご意見も参考にして、再発の兆候に気づけるようになりましょう。

 

4.まとめ

どのご病気でも同じですが、その方の状況や今出ている症状によって、薬の使い方は異なります。例えば、気分安定薬を複数用いたり、非定型抗精神病薬と併用されたり、ということがあります。 

また、病相が変わると、薬の量や種類が変わることもあります。

双極性障害は、悪化すると、大切な人とケンカ別れをしたり、仕事上の問題を引き起こしたりと、社会的な面での不都合が起きやすいご病気です。
治療をいったん止めてしまったり、治療を続けていたとしても症状が悪化した時に早めに対応できなかったりすると、入院での治療が必要になることもあります。

気分の波が症状として現れるご病気の原因というのは、まだ解明されていない部分が多いのですが、神経制御機能や神経調節系の障害が関連しているとされています[i]。また、生活上のストレスが引き金になることも多いです。今後の研究で解明されることが期待される分野でもありますね。

  • 当院でも、気分安定薬に関するご相談や、処方のアドバイスなどを行っております。大阪市城東区「鴫野駅」徒歩1分のけいクリニックまでお気軽にご相談ください。

 

[i] Sadock BJ, Sadock VA, Ruiz P, 井上令一,四宮 滋子,田宮 聡:カプラン臨床精神医学テキスト DSM-5 診断基準の臨床への展開 第 3 版.東京:メ ディカル・サイエンス・インターナショナル; 2016.

 

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