こんにちは大阪市城東区鴫野駅から1分「けいクリニック」院長、精神科専門医の山下圭一です。
以前のコラムでも睡眠について取り上げましたが、今回も皆さんの生活と切っても切り離せない睡眠のお話です。
「眠れない・・・」という経験をしたことがある人は多いでしょう。一言で眠れないといっても、
・寝つきが悪い
・寝付いてもすぐに目が覚めてしまう
・夜中に何度も目が覚める
・眠りが浅い
・朝、起きる予定よりも早い時間に目が覚めて、再び眠ることができない
など、いろいろなパターンがありますし、これらが複数合わさっていることもよくあります。
今回は、不眠症について、不眠症の原因、そして治し方について解説していきましょう。
<目次>
- 1.不眠症チェックリスト
- 2.不眠症の原因は身体の病気のこともある
- 3.女性の不眠
- 4.不眠が続くと何が起こる?
- 5.不眠を治すために自分でできること
- 6.不眠を治すために医療機関でできること
- 7.おわりに
- 1.不眠症チェックリスト
ここで、簡単な睡眠のチェックをしてみましょう。
睡眠を測る尺度としては、アテネ不眠尺度[i]というものがあり、チェックリストにしてみました。
上記のうち半分以上の項目に当てはまることが、1週間に3回以上あれば、睡眠に問題を抱えているかもしれません。
睡眠の相談をするための、受診をお勧めします。
[i] Okajima I, Nakajima S, Kobayashi M, Inoue Y. Development and validation of the Japanese version of the Athens Insomnia Scale. Psychiatry Clin Neurosci 2013;67:420–5
- 2.不眠症の原因は身体の病気のこともある
-
眠れないというと、メンタルの不調を思い浮かべる方が多いかもしれませんが、不眠が症状として起こるご病気は、たくさんあります。
また、“不眠”という言葉を使うときに、“睡眠時間が十分に取れていない”ことを指す場合もあれば、「寝ている時間はあるけれど、寝た気がしない」という状態を指す場合もあります。例えば、不眠が起こる身体の疾患として、次のような病気が考えられます。
- 睡眠時無呼吸症候群
-
眠れない原因となる身体の病気で一番有名なのは、”睡眠時無呼吸症候群”かもしれません。
睡眠時無呼吸症候群では、いびきや無呼吸により中途覚醒や喉の渇き、起床時の熟眠感のなさの他、夜間の睡眠がうまくとれないため、日中に眠気を感じ、イライラしたり、集中力や判断力が低下したり、ということが起こります。- むずむず脚症候群(レストレスレッグ症候群)
むずむず脚症候群とは、休息中や活動していないときに症状が起こり、主に脚ににむずむずする、ぴりぴりする、かゆみ、痛みなどの強い不快感が現れるという症状が特徴です。特に夕方~夜にかけて症状が出やすく、睡眠の問題にもつながりやすい病気です。
-
- 身体の不快感
-
そのほかにも、腰痛や関節痛、歯痛などの痛みや、蕁麻疹などのかゆみ、夜間の頻尿等の身体の症状により、不眠になることがあります。
- 物質や薬物の影響
-
カフェインやアルコールなどの物質の影響や、時には治療薬の副作用で不眠になることもあり得ます。例えば、市販の風邪薬には成分の眠気を抑えるためにカフェインが配合されており、お茶やコーヒーで内服するとカフェインの摂りすぎになることがあります。
さて、不眠を引き起こす原因となる身体の病気はなさそうだ、となったら、メンタル面のチェックをしてみましょう。
まずは、眠れなくなった何かのきっかけがあるかというのが大切です。
非常にショックな出来事があったときに、一時的に眠れなくなるのは、ストレスに対する反応であり、これだけで“不眠症”というわけではありません。
では、眠れないという症状が出ることがある、精神科で診る疾患について確認していきましょう。 -
- うつ病
-
うつ病の一つの症状に不眠があります。そのほかにも、抑うつ気分や、これまで楽しめていたことに興味を持てなくなる、という症状を伴います。その他、食欲の減退または増加、疲労感、気力の減退、罪責感、思考力や集中力の減退、死についての反復思考、がみられることがあります。
-
- 適応障害
-
ストレス原因に反応して、眠れなくなったり、集中がしづらくなったり、その他多様な症状により、社会的な機能の障害を引き起こします。
-
- 急性ストレス障害・心的外傷後ストレス障害
心的外傷となる出来事の後に様々な症状が出るものですが、睡眠障害の症状がみられることもあります。
3.女性の不眠
不眠は、男女ともに起こりうるものです。
ただ、女性は、月経、妊娠・出産、閉経を通して、内分泌環境が大きく変動するため、気分や睡眠に変化が起きやすいのです[i]。
また、家事を担う部分はまだ女性のほうが多いという家庭も多いでしょうから、家族が起きてくる前に起きて朝食の支度などを行い、寝るのも一番最後、という、生活のリズムになっている女性もいらっしゃるのではないでしょうか。
まずは、妊娠に伴う不眠についてご説明しましょう。
妊娠の前半は、過眠になりやすく、後半は中途覚醒が原因で睡眠不足になりやすいとされています。妊娠の後期では、子宮が大きくなる、胎動による違和感、頻尿、腰痛などにより、眠りが妨げられやすくなります[ii]。
出産後は、ホルモンの変化が大きいことに加えて、育児優先になってしまい、睡眠時間が減ったり夜中に起きなければならなかったりということが起こりやすくなります。
次に、月経関連の症状をみていきましょう。
月経前症候群では、いらいらや気分の落ち込みが出ることがあります。月経前は不眠というよりも、「眠くてたまらない」という風になる方が多いのですが、眠れなくなることもあります。
また、月経中は、腹痛や腰痛、頭痛などの不快感があらわれ、眠りを妨げることもあります。
最後に、更年期についてです。
更年期とは、閉経の前5年、あと5年を指すことが一般的です。だいたい45-55歳くらいの年齢が当てはまります。
更年期障害の症状として不眠が出ることがあります。
また、年齢を重ねると誰でも睡眠時間が短くなりますが、更年期の時期と重なると余計に、「以前と比べて眠れなくなった」と悩まれる方が増えるでしょう。
このように、女性はホルモンの変化や社会的役割の特徴により、睡眠が妨げられる要因を抱えやすいですから、かかりつけの産婦人科医や内科医にも相談してみましょう。
[i] 渋井佳代. (2005). 女性の睡眠とホルモン. バイオメカニズム学会誌, 29(4), 205-209.
[ii] 渋井佳代. (2005). 女性の睡眠とホルモン. バイオメカニズム学会誌, 29(4), 205-209.
4.不眠が続くと何が起こる?
睡眠は、量と質が大事です。
睡眠の量、または質、あるいはその両方に不足があると、「眠れない」と感じます。また、「眠れない」以外の症状にも要注意です。
十分な睡眠をとることができていないと、以下のようなことが起こることがあります[i]。
- ・疲労、倦怠感
- ・注意力、集中力、記憶力の低下
- ・社会、家庭、職業での支障、もしくは学業低下
- ・気分障害、イライラ感
- ・日中の眠気
- ・多動、衝動的、攻撃的などの問題行動
- ・やる気、気力、自発性の低下
- ・過失や事故を起こしやすい
夜眠れなくて明け方から寝付いて、日中寝てしまう、いわゆる“昼夜逆転”という状態になることもありますし、睡眠のリズムが変わらなくても、日中に居眠りをしてしまう、眠くて集中力が落ちる、などの困りごとが起こることもあります。
心身の不調の原因が不眠であることはよくありますので、睡眠が足りていなくて、そのほかの不調もあるという方は、まず十分な睡眠をとってみて、困りごとが解消するかどうか、確かめてみてください。
[i] 河合真著・立花直子編集協力(2022)『睡眠専門医がまじめに考える睡眠薬の本』丸善出版
5.不眠を治すために自分でできること
眠れなくて困っているとき、睡眠薬は役に立ちます。
ただ、すぐに薬ではなく、生活習慣の見直しをしてみましょう。また、薬の治療を行う場合でも、生活習慣で改善すべきところは改善する、というのはとても大切です。
眠れないという方で多いのは、平日は仕事や学校のために起きる時間が決まっているけれど、週末に寝だめをしているパターンです。
就寝時間と起床時間をある程度一定にするなどの、規則正しい生活が大事です。
そのほか、以下の生活習慣はよい睡眠のために推奨されています。
- ・定期的に運動する
- ・寝室の環境を快適にする(明かり、温度、湿度、音など)
- ・寝る2時間前は重い食事を避ける
- ・寝る前に水分を取りすぎない
- ・寝る4時間くらい前からはカフェインやお酒はとらない
- ・特に夜は、たばこを吸わない
- ・できれば、起床時間をそろえる(1時間差ぐらいまで)
最近では、スマートフォンやPCを持っている人がほとんどですから、夜遅くまでスマホを触ったり、PCで明るい画面を見たりしていると、入眠が妨げられます。
次に、夜眠れなくて昼間に眠い時、ついつい昼寝をしてしまいますが、長すぎる昼寝は夜の不眠の原因になります。過眠を取るときは、目覚まし時計をかけて、15-20分程度にしましょう。
そして、ここ3年ほど、在宅勤務が一般的になったこともあり、仕事の日は家から一歩も出ない、ほとんど運動しない、という人も増えています。
適度な運動はよい睡眠を助けてくれますから、一日一度は家から出る、できれば午前中に家から出て、太陽の光を浴びながら散歩などをしてみてください。体内時計がリセットされ、睡眠のリズムを安定させてくれます。
6.不眠を治すために医療機関でできること
医療機関では、不眠の原因となる疾患の診断のための検査や、薬の治療が可能です。薬以外にも、睡眠衛生指導と呼ばれる生活習慣の気を付け方や、睡眠の認知行動療法についての知識を得ることもできるでしょう。
いびきや無呼吸など、睡眠時無呼吸の症状があるようなら、検査ができる呼吸器内科や耳鼻科を受診してもよいでしょう。
睡眠に関する症状で、困るポイントというのは、”睡眠中のことは患者さん本人が覚えていない”ということです[i]。例えば診察の時に、「いびきをかいたり、呼吸が止まっていたりすることはありますか?」と質問を受けても、ご自分ではわからないでしょう。
できれば、ベッドパートナーの方と一緒に受診するのが一番確実です。難しい場合は、事前に自分が寝ているときのことを聞いておきましょう。同居人がいない場合は、旅行の時に同室だった人に聞いてみてもよいかもしれません。
ここでは、受診するときに問診で何を聞かれることが多いかについてご紹介しましょう。
「眠れなくて困っている」ということで病院にかかるとき、診察で聞かれることとしては、
・布団に入る時間
・布団に入ってから入眠までの時間
・途中で起きることがあるか
・起きる時間
・昼寝はするか、するのであればどのくらい昼寝するか
・仕事のある日と仕事のない日の起床時間などの違い
・眠れなくなったきっかけはあるか?
・眠れない以外に何か症状はあるか?
などがあるでしょう。
何科を受診するかにもよりますが、精神科医の診察を受ける場合は、より詳しい生活歴を聞かれることもあるかもしれません。
薬物療法については、睡眠と覚醒のリズムを整える薬、寝つきをよくする睡眠導入剤、睡眠の質を改善する薬などがあります。うつ病などのほかのご病気もある場合は、鎮静作用のある抗うつ薬や抗精神病薬が助けになることもあります。
睡眠薬については、「やめられなくなるのが怖い」と心配される方もいらっしゃいます。
たしかに、依存性が懸念される睡眠薬もありますし、睡眠時無呼吸症候群に対してはある種の睡眠薬は無呼吸を悪化させること、高齢者には”せん妄”と言われる意識障害を引き起こす場合があること、等に留意して選択する必要があります。
[i] 河合真著・香坂俊監修(2016)『極論で語る睡眠医学』丸善出版
- 7.おわりに
-
今回は、「眠れない」ということについて、どのような原因がありうるか、生活習慣で気を付けることとは、薬の治療はどのようなものがあるかについて解説しました。眠れない、というだけでもつらいものですが、眠れないために昼間もぼんやりしてしまったり、いつも疲れていたり、集中力が落ちてミスなどが増えると、落ち込んでしまいます。
一方で、それほど気にしなくてもよい不眠としては、
1日眠れない日があっても、続くことはなく、翌日以降によく眠ることで睡眠不足を取り戻せる、以前より睡眠時間は減っているが、日中の眠気はなく、困りごとが起きていない、というものがあります。睡眠時間にこだわりすぎて、「眠れない」「なぜ眠れないのか」「どうやったら眠れるのか」と深刻に考えすぎてしまうと、ますます眠れなくなるということはよくあります。「眠れない日もあるさ」とあまり気にしないでのんびり構えることも大切です。
「気にしないようにしてもつらい」、「生活習慣に気を付けても、なかなか改善しない」という場合は、早めに医療機関で相談してみてください。
当院でも、不眠に関するご相談や睡眠薬の服用に関するご相談などをお受けすることが可能です。日常生活の中の眠りに関するお悩みなどございましたら、大阪市城東区「鴫野駅」徒歩1分のけいクリニックまでお気軽にご相談ください。