コラム

2023.04.10

不安と不安症~不安な気持ちとの向き合い方~

こんにちは大阪市城東区鴫野駅から1分「けいクリニック」院長、精神科専門医の山下圭一です。

今回は「不安」についてお話をします。

「不安は病気の症状なのか?」と問われれば、そうとは言い切れません。
“正常不安”と呼ばれる、人間に備わった感情があります。もちろん、不安の感じやすさは人によって異なりますが、誰もが体験するものです。 

不安がどのように現れるかも、個人差があり、めまい、落ち着かない感じ、発汗、動悸、脈が速くなる、手が震える、下痢やおなかの不快感、など、さまざまな身体の変化としてとらえられる場合もあります。 
不安な気持ちがないからといって、不安になっていないというわけではないのです。

また、不安によって、思考や知覚などにも影響があります[i]。例えば、些細なことを大げさにとらえたり、心配しすぎたり、という思考に陥ってしまうことがあります。 

不安は悪いものではなく、危険を避けるためには役に立つ感情です。ヒトは危険を察知すると不安が起こることで、緊張が高まり、覚醒した状態になり、闘ったり逃げたりするという行動に出ることができるのです。不安は危険にたいして警戒せよというサインでもあり、危険への対処を促してくれるものでもあります。

ただ、危険の度合いに比べて不安が強すぎると、日常生活に支障をきたすこともあります。
例えば、バスなどの公共交通機関を使えなくなることもありますし、症状が強いとひきこもりのようになってしまう場合もあります。

不安は自分自身のアラートですから、無視しないことが大切ですが、不安に振り回されてしまうことのないように、必要に応じて治療を受けてもらいたいと思います。では、どのような場合に受診・治療が必要となるのか、見ていきたいと思います。

[i] Sadock BJ, Sadock VA, Ruiz P, 井上令一,四宮 滋子,田宮 聡:カプラン臨床精神医学テキスト DSM-5 診断基準の臨床への展開 第 3 版.東京:メ ディカル・サイエンス・インターナショナル; 2016.

<目次>

  • 1.不安症?チェックしてみよう
  • 2.不安症と間違われることがある病気について
  • 3.不安症の原因は?
  • 4.不安症の治し方
  • 5.不安障害と不安症
  • 6.おわりに
  • 1.不安症?チェックしてみよう

不安症群のなかには、
・パニック症
・広場恐怖症
・限局性恐怖症
・社交不安症
・全般不安症
があります。

分離不安症/分離不安障害と選択性緘黙と呼ばれる、子ども時代にみられることの多い疾患については、あとで述べます。

それでは、どのタイプの不安症に当てはまる可能性があるかについて、簡単なチェックリストを用いて確認してみましょう。
ただ、以下のチェックリストは、診断基準そのものではありませんので、こちらに当てはまるものがあれば、精神科を受診し、診断のための診察を受けるようにしましょう。

不安症のタイプのうち複数が当てはまる場合もありますし、不安症の一つ(例えば全般不安症)とうつ病や、アルコールなどの物質使用障害が同時に存在することも多いとされています。 

繰り返しになりますが、上記のチェックリストはあくまでも参考です。当てはまる項目があり、不安に思われるかたは、メンタルクリニックを受診することをお勧めします。

 

  • 2.不安症と間違われることがある病気について
  •  

    前述の不安症群のうち、特にパニック症は、さまざまな身体の症状を伴うことが多いため、甲状腺機能亢進症、てんかん、不整脈、喘息などの身体疾患の影響がでる場合があります。
    「不安だからメンタルの病気」と考える前に、身体の診察や検査も受けましょう。

  • また、アルコールや薬物の影響がある場合は、原因となる物質をやめることで改善することがあります。
    一方で、不安の症状に対処するために(自己治療、とも呼ばれます)、アルコールや薬物を使用している場合もあるため、どちらが原因かの区別は難しいものです。 

    不安やパニックの症状は、不安症以外の精神疾患でも見られることがあります。“不安があるから不安症”、というわけではないのです。
    もちろん、不安症とほかの精神疾患の両方の診断基準に当てはまる場合もあります。 

    これらのことから、診断名にこだわりすぎることなく、困っている症状に対処するにはどうするのがよいか、という視点で主治医と相談しましょう。

 

 

3.不安症の原因は?

はじめに述べたように、不安は正常な反応であり、危機に対するアラートですので、怖がりすぎる必要はありません。

不安症の原因は、様々な因子の相互作用によるものですので、一概には言えません。
ただ、不安に過敏であったり、不安をネガティブに考えたりしている気質との関連が言われています[i]
また、自律神経系のうち、交感神経の緊張が強いことは、パニック症と関連しています[ii]

生物学的には、遺伝的に不安になりやすい人はいるとされています。
脳の扁桃体や視床下部いう部分が関わっているとされており、神経伝達物質としては、ノルエピネフリン、セロトニン、γアミノ酪酸(GABA)などが関わっているとされています。

遺伝や生物学的な影響については、治すうえで役に立たない場合において、過度に心配しすぎないほうが良いでしょう。

 

[i] 日本精神神経学会監修, 高橋三郎, 大野裕監訳:DSM-5精神疾患の診断・統計マニュアル. 医学書院, 東京, 2014.

[ii] Sadock BJ, Sadock VA, Ruiz P, 井上令一,四宮 滋子,田宮 聡:カプラン臨床精神医学テキスト DSM-5 診断基準の臨床への展開 第 3 版.東京:メ ディカル・サイエンス・インターナショナル; 2016.

 

4.不安症の治し方

不安症に対して用いられる治療法として、精神療法・心理療法と、薬物療法があります。 

精神療法・心理療法
認知行動療法や認知再構成法、問題解決法、暴露療法などの心理療法があります。
認知療法では、認知のゆがみに働きかけ、行動療法では身体症状に直接的に働きかけます。例えば、行動療法では、リラクゼーションやバイオフィードバックという手法が用いられます[i]

認知行動療法では宿題が出されて、セッションの間に取り組むことが必要となりますが、不安が強すぎて宿題ができないような場合は、薬物療法を先に受けるほうが良いかもしれません。 

認知行動療法は、自分で取り組むことのできるセルフワークブック[ii]などもありますが、一人で取り組むのが難しければ、専門家のサポートを借りるほうが良いでしょう。

 

薬物療法 

抗うつ薬のなかでも、選択的セロトニン再取り込み阻害薬(selective serotonin reuptake inhibitor: SSRI)やベンラファキシン(イフェクサー)が良く処方されます。
また、ベンゾジアゼピン系の抗不安薬も処方されることがあります。抗うつ薬よりも効果が早く出る、効果がわかりやすいという側面があり、頓服として用いやすいのが特徴です。
ただ、依存性や眠気・ふらつきのような副作用がありますので、投薬期限を限って処方することが推奨されています。

症状を抑えるための対症療法としてではなく、”不安のためにできなくなっている活動を行うための手段“として短期的に活用するのはよいでしょう。

[i] Sadock BJ, Sadock VA, Ruiz P, 井上令一,四宮 滋子,田宮 聡:カプラン臨床精神医学テキスト DSM-5 診断基準の臨床への展開 第 3 版.東京:メ ディカル・サイエンス・インターナショナル; 2016.

[ii] ミッシェル・G・クラスケ, デイビッド・H・バーロウ著, 伊豫雅臣監訳, 沖田麻優子訳.:不安や心配を克服するためのプログラム患者さん用ワークブック. 星和書店, 東京, 2017.

 

5.不安障害と不安症

精神疾患の診断・統計マニュアル(DSM)のⅣまでは不安障害というカテゴリーがありましたが、DSM-5では、児童期の分離不安症や選択性緘黙を含め、限局性恐怖症、社交不安症、パニック症、広場恐怖症、全般不安症が含まれています。
診断基準上のことですから、診断名にとらわれすぎることなく、今起きている困りごとにどのように対処するかという観点で、主治医と相談してみましょう。

上記で解説していない疾患として、“分離不安症(分離不安障害)”と“選択性緘黙”があります。最後に簡単に触れましょう。 

分離不安症は、子どものころに発症することが多いですが、成人になっても症状が残ることがあります。
養育者がそばから離れると、子どもが不安を感じることは自然なことです。例えば、通常は人見知りが始まる1歳から幼児期にかけて、ほとんどの子どもが、養育者がいないことに不安を感じます。
しかし、年齢を重ねるにつれて、養育者がそばにいないことによる不安は軽くなっていくことが多いものです。 

強い分離不安が、年齢を重ねても続く場合に、“分離不安障害”の可能性を検討します。症状としては、養育者から離れることを極端に嫌がる、親が死ぬのではないかと心配する、家に一人でいられない、などがあります。
登校拒否やひきこもりの原因が分離不安であることもあります。 

分離不安障害が思春期や成人期まで“不安障害”として続くこともあります。環境の変化に対処することが苦手であったり、重要な他者の居場所の確認を繰り返すことで、社会生活がうまくいかないことがあります。

次に、選択性緘黙では、話すことが期待されている特定の社会的状況で話せないということです。全く話せないわけではなく、他の状況では話せているという点が特徴的です。
例えば、家では普通におしゃべりをするのに、学校では一言も話さない子ども、というイメージです。
話さないだけでなく、過度に内気であったり、引きこもってしまったり、時にはかんしゃくを起こすこともある子どもがいます。 
成長するにつれて、自然と話せるようになる場合も多いとされています[i]

[i] 日本精神神経学会監修, 高橋三郎, 大野裕監訳:DSM-5精神疾患の診断・統計マニュアル. 医学書院, 東京, 2014.

 

6.おわりに

“不安”というのは危機に対応するための大事な反応であると同時に、不安が強すぎるといろいろな困りごとが起こるということを解説してきました。 

ただ、今回解説したように、「不安でたまらない」というのは、たいへんつらい状況です。仕事や勉強などやりたいことに集中できない、本当はやりたい(できるようになりたい)のに、不安になることを恐れて我慢していることがある、ということが起こると、大事なチャンスを逃してしまい、もったいない場合もあります。 

不安症は薬物療法や心理療法により、軽くなったり治ったりする病気です。
「自分の不安は強すぎるのかな・・・」「不安のせいでやりたいことができない」、などお困りの方は、メンタルクリニックを受診をしてみてください。 

薬物療法に抵抗のある方は、不安にどのように対処するかについて、専門家と話すだけでも、役に立つことがあると思います。

当院でも、不安に関するご相談、薬物療法や心理療法に関するご相談などをお受けすることが可能です。不安が強いことでの様々なお悩みがございましたら、大阪市城東区「鴫野駅」徒歩1分のけいクリニックまでお気軽にご相談ください。