コラム

2021.02.16

睡眠時無呼吸症候群と精神疾患

こんにちは!!大阪市城東区鴫野駅から1分「けいクリニック」院長、精神科専門医の山下圭一です。
今日は睡眠時無呼吸症候群と精神疾患の関係について説明していきます。

結論から言うと睡眠時無呼吸症候群の治療をすることで精神症状の改善は期待できます。
というのも精神科の病気で治療されている方は睡眠時無呼吸症候群を合併している方が多く、適切な治療を受けていない方が多くいます。
そういった方が睡眠時無呼吸症候群の治療をすることで精神症状の改善の他にも色々な効果が期待できると言われています。

ではどうして精神科に通院中の方で睡眠時無呼吸症候群の方が多いのか、また治療をすることでどういったことが期待できるのかということに関して詳しく説明していきます。

目次

1.睡眠時無呼吸症候群とは夜間にいびきを起こすことで日中の眠気を起こす病気

ここでは睡眠時無呼吸症候群に関して簡単に説明していきます。 睡眠時無呼吸症候をご存じの方は読み飛ばしていただいて結構です。
睡眠中に10秒以上の無呼吸状態が1時間に5回以上起こることで熟眠が出来ず、日中に眠気を起こす状態を睡眠時無呼吸症候群といいます。
またその無呼吸には大きないびきを伴うことが多いと言われています。 日本にもおよそ200万人の患者がいると言われており成人男性の約3~7%、女性の約2~5%にみられます。男性では40歳~50歳代が半数以上を占める一方で、女性では閉経後に増加します。 その200万人の患者の中で治療を受けているのは15万人と患者数に比べて治療されている人数が少ないことから「隠れ睡眠時無呼吸症候群」の方が多いということも知られています。
日中の眠気や集中力の低下、熟眠感がないなどの症状がある方は睡眠時無呼吸症候群の可能性があるかもしれません。
詳しい解説はこちら

2.精神疾患をもっている人は睡眠時無呼吸症候群にかかるリスクが高い

精神疾患をもっている人は睡眠時無呼吸症候群にかかるリスクが、そうでない方と比べて優位に高いというデータがあります。

以下に詳しくみていきましょう。

統合失調症やうつ病の人が睡眠時無呼吸症候群の有病率が約40%であったことと比べて、そうでない方の有病率が6.2%であったという報告や、海外のデータでうつ病と心的外傷後ストレス障害(PTSD)の人で睡眠時無呼吸症候群を合併している確率が優位に高かったという報告もあります。
また国内の睡眠時無呼吸症候群の患者における精神疾患の有病率は27%であり、全人口の精神疾患の有病率10%と比較して2.7倍と高いことが報告されています。

ではなぜ上記のようなことが起こるのか?ということを、精神疾患と睡眠時無呼吸症候群の関係と併せて説明していきます。
睡眠時無呼吸症候群のリスク因子として高血圧や糖尿病、肥満、メタボリックシンドロームなどの生活習慣病があることが知られています。
また精神疾患にかかっている人は生活習慣病にかかりやすいことが知られております。 すなわち精神疾患にかかっている人は生活習慣病になりやすいため、精神疾患は睡眠時無呼吸症候群のリスク因子をもっている可能性が高いため睡眠時無呼吸症候群を合併しやすいことが分かります。
それ以外に精神疾患における中枢神経系の変化が睡眠時無呼吸症候群の原因になることも知られています。
例えばうつ病では脳内のセロトニン機能だけでなく頸部の筋肉に作用するセロトニンの機能も低下しているため筋緊張の低下が起こり睡眠時無呼吸症候群を発症すると言われています。

また他の原因としては精神疾患の治療薬による影響も考えられます。
例えば抗精神病薬の副作用としての代謝異常や体重増加や、睡眠薬や抗不安薬などのベンゾジアゼピン系と呼ばれる薬剤による筋弛緩作用によって気道が狭くなることも原因として考えられます。

上記のような原因で精神疾患をもっている人は睡眠時無呼吸症候群にかかる危険性が高いと言えるでしょう。

3.精神疾患の治療において睡眠時無呼吸症候群の有無は非常に重要

ここでは睡眠時無呼吸症候群の治療と精神症状の関係やその結果得られるメリットなどに関して説明していきます。
※以下の睡眠時無呼吸症候群の治療は主にCPAP(持続陽圧呼吸療法)です。具体的には寝ているときに鼻にマスクを装着し、空気を送り込んで気道の閉塞を防ぐことにより、睡眠時無呼吸を予防する治療法です。

様々な研究の結果から、精神疾患にかかっており睡眠時無呼吸症候群を合併している方に睡眠時無呼吸症候群の治療を実施することで精神症状の改善を認めたという報告がされています。
例えば難治性のうつ病として治療されていた方が睡眠時無呼吸症候群の治療をしたことでうつ症状の改善を認めた例や、睡眠時無呼吸症候群を見逃されており薬剤性の認知機能低下を来していた高齢者の例なども報告されています。また心的外傷後ストレス障害(PTSD)の患者に対し治療を行ったことで悪夢などPTSDの症状が改善したというデータもあります。

海外の論文でも精神疾患の治療をする上で睡眠時無呼吸症候群の合併に注意をして治療にあたることが重要であると言われています。その理由として睡眠時無呼吸症候群は慢性的な睡眠中の低酸素を起こす原因となり、その結果中途覚醒や熟眠感の低下など睡眠状態の悪化につながります。睡眠状態が悪くなると精神症状は悪化するため、睡眠時無呼吸症候群は精神症状の悪化の原因になるということです。

またCPAPによる治療によって症状が改善することで薬の量を減らせるという結果も出ており、睡眠時無呼吸症候群の治療により減薬も可能になると考えられています。

上記の理由から精神疾患の治療を実施するうえでいびきの有無や日中の眠気などの睡眠時無呼吸症候群に関連する症状の聴取をすること、また必要に応じて検査を行っていくことは非常に重要であると考えられる。加えて睡眠時無呼吸症候群の治療を実施することで精神症状の改善や減薬にもつながることが期待できると考えられます。

4.まとめ

睡眠時無呼吸症候群というのは夜間に無呼吸を頻回に起こすことで熟眠感の低下や日中の眠気を起こす病気で、およそ200万人の患者がいると言われていますが治療をうけているのはそのうち50万人程度で診断を受けていない「隠れ睡眠時無呼吸症候群」の患者も多いと言われています。
精神疾患にかかっている患者さんは生活習慣病のリスクも高く、また内服している薬剤の影響などもあり睡眠時無呼吸症候群にかかるリスクも大きいことが知られています。 また睡眠時無呼吸症候群の治療をすることで精神症状の改善も期待が出来るし、内服している薬剤の量も減量することが可能であると言われています。

もし精神科に通院されている方でいびきが大きい、寝ているときに呼吸が止まっている、日中の眠気が強い、集中力の低下があるなどの症状がある方は一度相談頂ければと思います。 当院では自宅でできる簡易検査も実施しており検査から診断、治療が可能となっております。

参考文献
1)Obstructive Sleep Apnea and Psychiatric Disorders: A Systematic Review Madhulika A. Gupta, MD, FAASM, Fiona C. Simpson, HBSc February 15, 2015 https://doi.org/10.5664/jcsm.4466
2)内村直尚 精神疾患と睡眠時無呼吸症候群-精神経誌(2010)112巻9号
3)宮崎総一郎 小林隆一 北村拓郎 睡眠時無呼吸症候群診療のピットフォール 耳展 54:10~18,2011