こんにちは!!大阪市城東区鴫野駅から1分「けいクリニック」院長、精神科専門医の山下圭一です。
この記事では統合失調症の妄想に関して対応方法も併せて説明していきます。
まず結論からいうと
統合失調症の妄想とは被害妄想や関係妄想と呼ばれる妄想が多く、恐怖や不安を感じるような内容が目立ちます。
また本人はその考えが妄想であることを認識できないことが多いため、周囲の方も対応に苦労することが多いです。
妄想への対応としては妄想に対して否定も肯定もせず、不安な気持ちに共感を示し安心感を与えることが重要になります。
では上記に関しさらに詳しく説明していきますのでよろしくお願いします。
目次
- 1.統合失調症ってどんな病気?
- 2.統合失調症の妄想ってどんな妄想があるの?
- 3.妄想に対する正しい対応方法とは?
- 4.統合失調症の治療
1.統合失調症ってどんな病気?
統合失調症とはうつ病や双極性障害、不安障害と同様に精神疾患の一つです。
およそ100人に1人の割合で発症するといわれており、決して珍しい病気ではありません。男女比はほぼ同数で発症年齢は10代後半から30代頃までが最も多いといわれています。
この病気は脳の病気で、さまざまな刺激を伝え合う神経のネットワークにトラブルが生じることで起こる脳の機能障害によって起こります。
症状としては陽性症状、陰性症状、認知機能障害が挙げられます。
陽性症状というのは普段ないものが現れてくる症状で、幻覚や妄想などが挙げられます。陰性症状というのは普段あったものがなくなってしまう症状で意欲の減退や、気分の落ち込み、自閉傾向などが挙げられます。認知機能障害とは物事に対する判断や理解力などに支障が出ることで、その結果としてコミュニケーション力が著しく低下することが問題となってきます。
治療としては薬物療法を中心として心理社会的療法などがあります。近年、病気に対する研究の進歩、さまざまな治療薬の開発により、この病気の治療は飛躍的に進歩しています。この病気にかかっても、早期に専門医の適切な治療を受ければ、多くの患者さんは社会生活に復帰することができます。
2.統合失調症の妄想ってどんな妄想があるの?
そもそも妄想とは…
妄想とは非現実的なことや、現実にはありないことを信じ込んでしまうことです。それに対して明らかな反論があってもその考えを訂正することが困難で、妄想を持つ本人はその考えが妄想であると認識できないことが多いです。妄想が出現する病気として統合失調症をはじめ、躁うつ病や、うつ病などの気分障害や、認知症などが挙げられます。しかしながら一概に妄想といっても病気によって出現の仕方や内容が異なるので、その点には注意することが重要になってきます。
統合失調症の妄想
統合失調症で出現しやすい妄想として以下のようなものが挙げられます。具体例と共に見ていきましょう。
①被害妄想
自分が誰かに攻撃されたり、嫌がらせを受けているというような妄想です。統合失調症で最もよく見られる妄想です。
具体例>
追跡妄想「集団ストーカーにあっている」「警察に尾行されている」など誰かに追跡されているという妄想
注察妄想「部屋に盗聴器がしかけられている」「監視カメラで行動を監視されている」など誰かに見張られているという妄想
②関係妄想
周囲にいる人の言動や、テレビやインターネット上の出来事が自分に関係のあることのように考えてしまう妄想です。
具体例>
「町中ですれ違う人の咳き込みは自分への警告だ」「テレビの特定のCMばかり流れているのは自分に対するあてつけだ」など実際には全く関係ないことを自分に関係あることと考えてしまう
③誇大妄想
自分の能力や価値を実際以上に高く感じ過大評価を抱く妄想です。現実よりもはるかに偉大である、裕福であるなどと考えてしまいます。
具体例>
血統妄想:「自分は貴族の血をひいている」など自分が皇族や貴族など高貴な出自であると考える妄想。
恋愛妄想:「「芸能人、有名人と交際している」など実際にはそのような関係にないのに、ある人に愛されているなど思い込む妄想。
④微小妄想
誇大妄想とは反対に自分を貶め、実際の自分よりもはるかに低く評価してしまう妄想です。
具体例>
貧困妄想:「貯金がすべてなくなってしまった」など実際よりも貧しいと信じる妄想。
心気妄想:「自分は不治の病にかかってしまった」など実際はそうでないのに健康を害してしまったと考えてしまう妄想。
以上具体例と共に統合失調症で表れる色々な妄想に関して見ていきました。
なお妄想の内容は個人の状況や発症の背景によって異なるので、上記で挙げた以外の妄想が出現することもあるのでその点は注意してください。
3.妄想に対する正しい対応方法とは?
ここでは統合失調症の妄想に対する正しい対応方法と、治療へのつなげる方法に関して説明していきます。
妄想に対する正しい対応
統合失調症の症状が悪化した時には幻覚や妄想など色々な症状が出現します。
またその際には患者さまの人柄や性格がガラッと変わったようになってしまい、家族や周囲の方も戸惑ったり混乱してしまうことがあります。
この時に大切なことは幻覚や妄想などの症状に対し頭ごなしに否定しないことが大切になってきます。
妄想が出現している時、患者さんはその妄想によって悩まされています。「組織に追われている」「自分の行動が監視カメラで監視されている」などありえない内容ばかりですが、上記でも説明したように本人はそれが妄想だとは分からず「真実である」と思い込んでいます。
そのためその内容に関して訂正や否定、説得しようとしてもそれが誤りだと納得させることはできません。そればかりか、否定や説得しようとすることで言い争いになったり、患者の不信感が生まれ関係性が悪化することがあります。
また受診に至った際に患者さんと家族の関係性が非常に悪化しているケースも少なくありません。
ではどういった対応が望ましいかを説明してきます。
妄想が出現している時患者さんはその妄想によって追い詰められ、強い不安を感じているので、周囲の人はまずその患者さんの気持ちを理解し寄り添うように心がけましょう。妄想の内容に対しては否定も肯定もせず、不安な気持ちに共感を示し安心感を与えて上げることが大切です。
具体的には「すごく不安だったんだね、一緒にいれば大丈夫だから安心してね」「そういう風に感じているのはしんどかったでしょう、まずはゆっくり休めるようにしよう」などの安心感を与えつつも、気持ちに共感するような声掛けが良いと言われています。
また気持ちが落ち着いた後も妄想がなくなったわけではないので、同じ話を繰り返すこともしばしばあります。その際は「また同じか」と言って片付けず、なるべく淡々と話を聞いてあげるようにしてください。
以上が妄想への対応となります。
繰り返しにはなりますが、妄想に対しては否定も肯定もせずに患者さんの気持ちに寄り添うというのが対応の基本です。
治療へのつなげ方
では次に治療につなげる方法に関しても説明していきます。
上記のような正しい対応をしていても妄想に左右されて興奮したり、妄想が原因で色々な困った行動が現れてくることも少なくはありません。例えば「監視カメラを探すために家の中にある電化製品を分解する」「組織から尾行されているので警察に相談に行く」等の行動が出現することもあるかもしれません。その際には早急に医療機関へ受診し適切な治療を受けることが必要です。
ⅰ)妄想が出現し患者さん本人が「調子が悪い」と自覚している場合
それに対して一度病院で相談しようと伝えて受診を促せば大丈夫です。可能であれば家族の方や周囲の方が一緒に受診してあげるとなお良いでしょう。
ⅱ)妄想が出現しているが特にそれに対しては困っていない場合
この場合は妄想に関して指摘することで受診をさせることは難しいことが多いです。しかしながら妄想が出現している時は不眠や不安感、気分の落ち込み、気力の低下などの症状が出現することが多いため、そういった症状に対して一度病院で相談しようと促すと受診してくれる場合があります。その際も周囲の方も受診し症状に関して説明して頂ければ診断や治療に役立ちます。患者さんが妄想について話されない場合は、一度患者さんに席を外して頂き同伴者の方にお話を伺いすることもあります。
ⅲ)本人は特に不調を感じていない場合
この場合は病院を受診することが難しい場合が多いのですが、こういった場合も妄想内容によって患者さんは不安を感じていることが多いので「周囲から見て神経が疲れているように見える、心配だから一度受診してもらったら嬉しい」と理由も含めて、率直に伝えましょう。
ただこういった対応をとってもなかなか受診に繋がらない場合もありますが、だまして病院に行くことはやめましょう。だまされたという気持ちで医師に会っても、不信感を感じたままでは治療がうまく進むことは難しいことが多いです。
どうしてもお困りの場合は、家族さんだけでも相談に来ていただければ対応に関してアドバイスすることもできるかと思います。
またどうしても外来治療に繋がらず、治療をしないことのデメリットが多い場合は入院治療なども適応になってきます。入院治療に関しては入院が出来る病院に紹介させて頂くことになるので相談頂ければ幸いです。
また保健所などの精神相談に家族さんが相談に行かれるのも良いかと思います。
ここでは妄想に対する対応と、受診へのつなげ方に関して説明していきました。
どちらに関しても患者さんの気持ちをしっかりと聞いた上でその困っている部分に対してアプローチしていくのが重要になってきます。
4.統合失調症の治療に関して
統合失調症の治療に関しては薬物療法と心理社会的療法の2本柱になってきます。
薬物療法としては抗精神病薬と呼ばれる薬による治療が基本となります。その他、抗不安薬、気分安定薬、睡眠薬などの薬を併用することもあります。
また薬物療法に加えて、心理社会的療法に取り組むことが重要になります。精神科リハビリテーションとしてデイケアや作業療法や生活技能訓練、心理教育などを、それぞれの専門家と連携しながら進めていきます。
では薬物療法、心理社会的療法に関して以下に詳しく見ていきましょう。
①薬物療法
統合失調症の薬物療法は抗精神病薬と呼ばれるドーパミンと呼ばれる神経伝達物質に対して作用する薬が使われます。統合失調症では脳内のドーパミンが過剰に分泌されていると考えられているので、薬物療法を行うことでドーパミンを調整することで幻覚や妄想などの陽性症状の改善が期待できます。
抗精神病薬の種類も様々な種類があり、昔から使われている定型抗精神病薬と呼ばれる薬剤や近年開発された非定型抗精神病薬と呼ばれる薬があります。非定型抗精神病薬の方が副作用が少なく基本的には非定型抗精神病薬が薬物療法の第一選択として選ばれます。
非定型抗精神病薬の中でも色々な種類があり、患者さんの症状や副作用などによって薬剤選択が行われます。
最近では陽性症状が改善した後に社会復帰に向けてなるべく副作用の少ない薬剤を選択するといった治療方針が一般的であり、非定型抗精神病薬の中でも非鎮静系と呼ばれる眠気や身体のだるさなどの日常生活の支障となりやすい副作用の少ない薬剤を使用することが多いです。
②心理社会的療法
統合失調症の心理社会的療法としては精神療法やソーシャルスキルトレーニング、精神科デイケアなどが挙げられます。
ここでは精神療法としてよく実施されている、心理教育に関して説明していきます。
統合失調症は病識が得られにくい病気と言われています。「病識」とは自分が病気であるということを認識するということです。
そのため統合失調症の方は治療につながりにくかったり、治療継続が難しいことが知られています。統合失調症は症状の悪化を繰り返すたびに症状が治りにくくなると言われており、治療を中断すると2年以内に80%の方が再発すると言われています。
そのため治療を継続していき症状が再発しないようにすることが非常に重要であり、そのためにご自身が病気であるということ「病識」をつけていくことが大切になってきます。
この「病識」が持てるようになるために診察で話し合ったり、病気に関して説明を行っていきます。
また症状悪化のサイン(しばしば症状が悪化する前に普段よりイライラしやすくなったり、不眠が出現するなどの前兆があります)に関して相談しておくことで、症状悪化を未然に防ぐことが可能になります。
ここでは薬物療法、心理社会的療法に関して見ていきました。
統合失調症の方の治療としては上記2つを組み合わせて行っていくことが重要になっていきます。薬物療法に関しても副作用などに関してしっかりと相談しながら治療をすすめていくことが可能です。また心理社会的療法に関しても連携している就労支援施設などとも
相談しながら社会復帰に向けて治療を進めていくことが可能ですのでご相談ください。
まとめ
この記事では統合失調症の妄想に関して、病気の説明から妄想内容や対応方法、治療などに関して説明していきました。
統合失調症は病識が生まれにくく、妄想自体も本人はその考えが妄想であると分からないためご家族や周囲の方が対応に困られていることが多いです。
また妄想のような症状が出現した時にそれが妄想なのかどうか、病気であるかどうか判断に迷うこともあるかと思います。
妄想に対して家族としてどう対応したらよいか分からない、妄想が本当に病気なのか、また妄想に対しての治療を行っていきたいなどのお悩みがあれば、一度にご相談頂ければ幸いです。
参考文献
1)統合失調症 診断と治療のABC136 村井俊哉 企画
2)統合失調症 正しい理解と治療法 伊藤純一郎 監修