こんにちは大阪市城東区鴫野駅から1分「けいクリニック」院長、精神科専門医の山下圭一です。
今日はチック症に関して説明していきます。
「チック」という言葉を聞かれたことがある方は多いと思います。
この記事をお読みになる方は、ご自身のチックに悩んでいらっしゃる、あるいはお子さんのチックに悩んでいらっしゃる、という状況かもしれません。
TVに出ている有名人の方がチックの症状を持っているのを、ご覧になったことがある方も多いでしょう。
チックの症状は多岐にわたり、ある時期にしばらく出ていたものの、その後出なくなる一過性のものから、良くなったり悪くなったりを繰り返して長年続く慢性のものまで、様々な経過をたどります。
この記事では、チック症の症状と、どういう場合に治療が必要か、どのような治療法があるか、というお話をしたいと思います。
<目次>
1.“チック”って?
2.チックは二つに分けられる~音声チックと運動チック~
3.チックが起こりやすい時、起こりにくい時
4.子どものチック症について
5.大人のチック症について
6.チックの原因は何?
7.チックの治療について
1.“チック”って?
チックとは、正式な定義では“突発的、急速、反復性、非律動性の運動または発声”とされます。
かみ砕いて説明すると、“突然の素早い動きや音声が、繰り返し起こる”ということです。
“チック”または“チック症”は、診断基準上は“神経発達症群/神経発達障害障害群”に含まれます。
運動をつかさどっているのは神経ですから、脳の機能が原因となっている“脳の病気”と言えるでしょう。
2.チックは二つに分けられる~音声チックと運動チック~
チックには、運動チックと音声チックという区分と、単純性と複雑性、という区分があります。
単純性チックというのは動き(音声)が続く時間が短いもの、複雑性チックというのは単純性チックよりも長い時間続き、意味があるように見える動き(音声)です。
つまり、運動×単純性、音声×単純性、運動×複雑性、音声×複雑性、の4つの組み合わせがあります。
単純性×運動チック
単純性×運動のチックは、まばたきが最もよくみられ、白目をむく、口をゆがめる、頭を振る、などの顔や首の周辺の動きが多いです。
単純性×音声チック
単純性×音声のチックは、咳払い、鼻をならす、うめく、等があります。
単純性のチックだけであれば、生活上の支障は大きくはない場合が多いですが、例えば単純性音声チックがある場合ですと、試験中のように静かにしなければならない状況においては、ストレスを感じるかもしれません。
単純性チックが一時期見られていたけれども、その後出なくなる一過性のものもあります。
一方で、初めは1種類の単純性運動チックだったものが、次第に動きのバリエーションが増えたり音声チックも伴ったりと、症状が多様になっていく場合があります。
複雑性×運動チック
複雑性×運動のチックは、身体の色々な部分の動きが出るチックです。頭を回しながら肩をすくめるなど、単純性運動チックの組み合わせのこともあります。他には、飛び上がったり、人や物に触ったり、ときには自分を叩くこともあります。
他人や自分を傷つけてしまうかもしれない動きが出る場合は、安全のための工夫が必要になるでしょう。
複雑性×音声チック
複雑性×音声のチックは、ある言葉を繰り返したり、不謹慎な言葉を発してしまったりするものです。社会的に受け入れらにくい言葉を叫ぶ症状は、チック症全体の約1割にみられるとされています。
社会的に受け入れられにくい言葉が出てしまう場合は、公共交通機関に乗ることを避けてしまうなど、社会生活に支障をきたすこともあります。
社会的に受け入れられにくい言葉が出てしまう状態を「汚言 おげん」と呼び以下と定義されています。
汚言…汚物・ 糞便や排泄に関する語や 猥褻な語を頻繁に言う状態。
神経症・精神症やチック症の一症状としてみられ、また、小児の発達過程でも一時的に現れる。
また、人の言ったことを繰り返してしまう(反響言語、といいます)チックもあります。
例えば、「大丈夫ですか?」と聞かれると、通常は「大丈夫です」「大丈夫じゃないです」という答えを返しますが、「大丈夫ですか?」と質問を繰り返すのが反響言語です。
3.チックが起こりやすい時、起こりにくい時
先に述べたように、チック症は“神経疾患”ですから、育て方や心理的ストレスによって発症するものではありません。ただ、発症した後に良くなるか悪くなるかについては、心理的ストレスが関連すると言われています。
例えば、電車に乗っているときや、試験中など、「チックが出てはいけない」と思えば思うほど、出てしまうということもあります。チックというのは自分の意思でコントロールが出来ないため上記のような場面ではストレスを感じることで悪循環になる場合があります。
このようにチックは不安やストレスを感じる状況で起こりやすい一方で、リラックスしているときに起こりやすい方もいます。
睡眠中には見られないことが多く、起きているときも集中して何かをしているときに起きにくいと言われています。
チックの起こりやすい場面を知り、周りの理解を得る、チックを目立たなくするコツを身につける、などの工夫により、生活上の困りごとを減らしやすくなります。
疲労や緊張で頻度が増えることが多いですので、疲れをためない、睡眠時間をしっかりとる、ということも大事です。
4.子どものチック症
一般的に、幼稚園から小学校低学年に症状が出始める方が多いですが、1年以内に症状が収まる方がほとんどです。ですので、小学校のお子さんでチックが出ていても、心配しすぎることはありません。おおよそ子どもの100人に5~10人くらいは、一時的にチックが出ると言われており、とてもありふれた症状です。
その中で一年以上続いて、チックが全身に広がって声も出るようなお子さんは10000人に5人くらいなので、チックの大部分は直ると考えて構いません。
もっともよく見られるのは、まばたきのチックです。その他にも、頭や首の運動に出ることが多いので、頭を回したり、白目をむいたり、派手な動きであると、周囲に指摘されたりからかわれたりすることにつながります。
指摘されたりからかわれたりすると、起こりやすくなる場合がありますので、本人も周りも気にしすぎないことが重要です。
先に述べたように、周りが心配しすぎて子どもがストレスや緊張を感じる状況になると、治りにくくなります。チック症であることを周囲が理解し、指摘したり直そうとしたりせず、「そのうち良くなるだろう」とゆったりと構えることが大事です。
ただ、初めは単純チックだけだったのが、複雑チックも出るようになった、不謹慎な言葉の音声チックも出るようになった、と症状が多彩になっていく場合は、トゥレット症の可能性もありますので、児童精神科や小児神経科を受診することをおすすめします。
トゥレット症/ジル・ドゥ・ラ・トゥレット症候群は、学童期のお子さんの0.3-0.8%にみられる神経疾患です。18歳より前に始まったチック症状で、多彩な運動チックと一つ以上の音声チックが1年以上続く場合、診断されます。
薬物療法や心理療法が効果的な場合も多いですので、専門家に相談しながら治療したり対処方を見つけたりしていくのが良いでしょう。
5.大人のチック症について
大人になっても、チックの症状が続く方もいらっしゃいます。また、子どものころには気にならない程度だったものが、ストレスや不安にさらされることに伴って、年齢が上がるにつれて症状が悪化することがあります。
長年チック症とつきあってきている方は、様々な対処法を身に着けており、人前などで一時的に出ないようにすることができる人もいます。対応方法は子どもの場合と同様、生活に支障がなければ気にしすぎないこと、周囲の理解を得ること、です。
勝手に体が動いてしまうだけで(あるいは声が出てしまうだけで)、社会生活に支障がないことを理解してもらえば、「症状が出たらどうしよう」と不安に思うことも減らせるかもしれません。
「この動き(声)はチックなので」と周りに説明して理解を得ることで、授業や試験を受けるために別室を用意してもらえることもあります。「チックが出たらどうしよう」という心配を減らすことが、結果的にチックが出る頻度が減ることにつながります。
理解を得るために、ビリー・アイリッシュさん(アメリカの人気歌手)など、チック症を公表している有名人の話をしてもいいかもしれません。
また、チックの症状だけでなく、他の発達障害や強迫症などの合併があると、生きづらさを感じることが増えます。かかりつけの主治医など、相談できる人がいると安心です。
6.チックの原因は何?
実は、チックの原因はまだ解明されていない部分が多いのです。ドパミン神経系に働く薬が効くことから、ドパミン伝達のアンバランスが原因だといわれています。
さらに、環境の要因で症状が良くなったり悪くなったりもしますので、“神経系のアンバランス+環境のストレス”が原因、とも言えるでしょう。頑張れば止められる場合もありますが、ずっと意識的に止め続けるのは現実的ではなく、抑えようとすればするほど、症状が出てしまうこともあります。
単に“チック症状がある”というだけでは、“病気であり治療が必要”というわけではありません。症状が生活に影響する場合や、その他にも困りごとがある場合は医師に相談してみましょう。
7.チックの治療について
チックにより生活が困っていなければ、治療の必要がないことがほとんどです。ただ、不謹慎な言葉を伴う音声チックや、自分を叩くなどの自傷が起こる場合、チックの頻度が多くて生活に支障がでる場合には、治療の対象となります。
チックの症状によって生活に支障があれば、中学卒業あるいは18歳までは児童精神科や小児神経科で相談するのが良いでしょう。それ以上の年齢の場合は、脳神経内科や精神科を受診するのが良いでしょう。
薬による治療としては、ドパミン系に働く薬で効果がみられる場合が多いです。注意欠如・多動症や自閉スペクトラム症、強迫症を合併していることもあり、合併症の治療のほうが優先、あるいは症状の薬への反応を見ながら、並行して、治療が行われます。
薬以外の治療としては、周りの人に対する心理教育も重要です。家族や教師など周囲の人間がチック症について理解し、ストレスを減らす手助けをすることです。症状があるために、いじめられたり、学業が妨げられたりすることは、防がなければなりません。
難しいのが、「気にしないように」と言われると余計に気になってしまう、気にしないことができていない自分を責めてしまわれる方もいらっしゃる、ということです。
“チックがでるかどうか、どのくらい出るか”ということに囚われていると、症状の増減に一喜一憂して疲れてしまいます。“チックがあってもやりたいことができているか”という視点で、チック以外のことに少しずつ注意を向ける時間を増やしましょう。
また、チック症に対する心理療法として(認知)行動療法が試みられています。症状が出ないようにするというよりは、チックに対する対処法を身につけることを目指すものです。
チック症であれ、トゥレット症であれ、治療の目標は、“チックの症状があっても日常生活で困ることが少なくなること”です。症状と上手につきあっていきましょう。
- 8.まとめ
人生の一時期にチックの症状が出る人は、人口の1~2割にものぼるという調査があります。まったく珍しいことではありません。たいていは、子どもの頃に症状が出て、良くなったり悪くなったりしながら、年齢を重ねると症状がなくなる、気にならなくなる、という経過が多いです。
ただ、真面目で神経質な方の場合、症状を気にして緊張することで症状が出る頻度が多くなりがちです。周りも本人も、あまり気にせず、ゆったり構えることが、チック症とうまく付き合っていくコツです。
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トゥレット症には相談窓口やピアサポートを提供している団体があります。一人で抱え込んで悩まずに、同じ症状を持つ人がどのような対処をしているのかを知ることは役に立つでしょう。
症状のことばかり気にするのではなく、症状とうまくつきあっていくこと、日々のストレスを減らすことがチック症には効果的です。
しかしながら症状に関して不安や心配な場合は、一度医療機関にご相談頂ければと思いますので、大阪市城東区「鴫野駅」徒歩1分のけいクリニックまでお気軽にご相談ください。
参考文献
American Psychiatric Association(著), 日本精神神経学会(日本語版用語監修), 高橋三郎, 大野裕(監訳)DSM-5精神疾患の分類と診断の手引. 医学書院, 2014. NPO法人日本トゥレット協会 https://tourette-japan.org/
こころのライブラリー(7)トゥレット症候群(チック)-脳と心と発達を解くひとつの鍵- 出版:星和書店 著者:金生由紀子、星加明徳、高木道人、新井 卓、瀬川昌也