こんにちは大阪市城東区鴫野駅から1分「けいクリニック」院長、精神科専門医の山下圭一です。
前回に引き続き、更年期についてお話をしていきたいと思います。
前回のコラムでは、
・更年期とは何か?
・更年期にはどんな症状が起こるの?
・更年期にお勧めのセルフケア
についてご説明しました。
後編となる今回のコラムでは、更年期の症状でつらい時に、何科にかかればよいのか、そして病院でできる治療について、ご説明したいと思います。
<目次>
- 1.更年期障害の症状によって受診する科が違う
- 2.女性の更年期障害の治療
- 3.自由診療の選択肢もあるプラセンタ
- 4.男性の更年期障害の治療
- 5.まとめ
- 1.更年期障害の症状によって受診する科が違う
更年期障害を心配したときに、何科を受診すればよいのかを迷われる方は多いものです。
まず、女性ホルモンの数値をみて更年期に差し掛かっているかどうかを調べたい、ホルモン補充療法(HRT)を行うかどうかを相談したい、という場合は婦人科がよいでしょう。
また、女性ホルモンの減少に伴って、血圧が高くなったりコレステロール値が上昇したりしやすくなります、健康診断等でこれらの項目で“要受診と”なった場合には、内科が良いでしょう。
4.で述べる男性の更年期の症状や治療については、泌尿器科が良いでしょう(最近では男性更年期のための外来/メンズヘルス外来を設けている医療機関も増えています)。
高血圧や脂質異常症などを伴うようであれば、内科での治療も必要になるというのは、男女ともに共通することです。
最後に、身体の症状よりもうつなどメンタルの症状がつらい場合は、心療内科・精神科の受診をおすすめします。身体とこころはつながっているものですから、心療内科・精神科の治療により、身体の症状がよくなることもあります。
睡眠の問題に関しては、内科や婦人科、泌尿器科で相談でき、薬の処方もしてもらえる場合もありますが、睡眠薬の使い方の専門家は精神科医ですので、頑固な不眠がある場合も、心療内科・精神科の受診をおすすめします。
- 2.女性の更年期障害の治療
まず女性の更年期障害の治療についてご説明します。
のぼせ(ホットフラッシュ)や発汗、冷え、動悸、などの“血管運動神経症状”に対しては、血中エストラディオール(E2)が低く、卵胞刺激ホルモン(FSH)が高い場合(つまり、血液検査上も更年期だとされる場合)は、ホルモン補充療法(HRT)が効果的です。
ホルモン補充療法(HRT)は、LDL-コレステロールの低下や、骨折の予防の効果もあり、上記のような自覚症状自体が重くない場合でも、推奨されることがあります。ホルモン補充療法(HRT)の薬は、飲み薬に加えて、貼り薬と塗布剤(ジェル)があり、使いやすい剤形を選べるようになっています。
ホルモン補充療法(HRT)の有害事象としては、エストロゲンに依存する疾病やがんとの関連について、研究されています。子宮を摘出していない女性の場合は、エストロゲン投与による子宮内膜がんのリスクを減らすために、黄体ホルモンを一緒に投与したほうが良いとされています。また、不正性器出血や胸の張り、消化器症状などの副作用も報告されています。
月経がある女性や、上記のような既往症や副作用からホルモン補充療法(HRT)を行えない状況の場合は、漢方や自律神経調整薬が用いられることが多いでしょう。
漢方は、体質(証)を診て処方するものですので、更年期障害にはこの漢方、という確実に効くというものはないのですが、“当帰芍薬散(とうきしゃくやくさん)”“加味逍遥散(かみしょうようさん)”“桂枝茯苓丸(けいしぶくりょうがん)”という三種類の漢方薬が、女性の更年期障害に対してよく使われています。
メンタル面の症状に対しては、心療内科・精神科での薬物療法や心理療法が行われます。症状自体が軽快する場合もありますし、症状がゼロにならない場合でもうまく症状と付き合いながら生活する方法を身に着けることができます。
心理療法の中でも、認知行動療法(CBT)は、“様々な出来事に対して、どのように考え、行動するかを問題として捉える。そして行動面、認知面、感情面、身体面といった側面から問題を解決するための対処法やセルフコントロールの方法を習得する”ことですが、心理的問題以外にも身体の不調や痛み、睡眠障害に対しても実践されており、更年期の症状や不眠に対しても、有効性が示唆されています。
心身はつながっているものですから、身体の症状、こころの症状と、はっきり分けるというのは難しいものです。
身体のこともメンタルのことも、利用できる公的なサービスについても相談できる、かかりつけの医師をもつことをおすすめします。
生活の環境面で大きなストレスを感じていらっしゃる場合は、環境調整も大事です。
介護など生活面で負担になっていることがあれば、自分一人で何とかしようとせずに、相談先をつくり、公的なサービスを利用していくことをおすすめします。かかりつけの病院やご家族の受診先に、医療相談室がある場合は、相談してみましょう。医療相談室がない場合は、役所の窓口で尋ねてみることで、地域のサポート資源について情報を得ることができます。
最後に、サプリメントとしては、大豆エストロゲン/イソフラボン(商品名:エクオール等)が、ホットフラッシュを改善させるという報告があります。ただ、摂りすぎは、子宮内膜増殖症を悪化させる可能性も指摘されており、注意が必要です。
サプリメントや漢方薬にも有害事象は起こりえますので、用法容量を守る、体調がおかしいなと思ったら、病院で相談することが大事です。
- 3.自由診療の選択肢もあるプラセンタ
プラセンタとは、ヒトの胎盤から抽出された成分のことです。胎盤は、赤ちゃんに栄養や酸素を届けるためのものなので、細胞を活性化する働きをもつ様々な成分が含まれています。このエキスを注射することで、身体の機能の改善や、疲労回復、美容にも効果があると言われています。
プラセンタがどのようなメカニズムで効果を発揮するのかは、まだ十分にわかっていない部分はあります。ただ、傷の治りを良くしたり、疲労を回復させたりと、身体のバランスが悪くなっているのを整える作用に注目されて、数十年前から治療に使われています。
医療用には、メルスモンとラエンネックという製剤が医薬品として認可されています。メルスモンは“更年期障害”に、ラエンネックは“慢性肝疾患における肝機能の改善”に、保険適応があります。保健適応外(自由診療)としては、アンチエイジング効果を期待して使用されています。
メルスモンやラエンネックは、皮下注射で使うお薬です。重い副反応としてはアレルギーの反応(※アレルギーはどの医薬品でも起こりえます。他の医薬品に比べて特別起こりやすいわけではありません)、よく起こる副反応としては、注射した場所が腫れたり痛くなったりすること、と報告されています。
メルスモンとラエンネックのどちらが良いのか、というご質問をよく受けます。
まず、有効成分の含有量はラエンネックのほうが少しだけ多くなっています。一方で、注射の際の痛みに関しては、メルスモンのほうが弱いようです。メルスモンには、ベンジルアルコールが添加されているので、これが痛みを和らげてくれるのですが、逆に添加物にアレルギーのある方には使いづらくなります。また、プラセンタの投与を受けると、献血ができなくなってしまいますので、献血を考えている方は注意が必要です。
プラセンタの成分に対して副作用が起こらない方であれば、週に何度か投与することで、効果が高まることが期待できます。週1回で効果が実感できない場合は、2回に増やして効果を感じられたという方もいます。
注射薬よりも手軽に取り入れられる、プラセンタの内服薬やサプリメントもあります。注射を頻繁に受けられないという方で、併用されている場合もあります。
プラセンタのメリットとして、乳がんや子宮がんの既往があるなど、ホルモン補充療法(HRT)が使えない場合があることに対して、プラセンタにはホルモンが含まれているわけではないので、ホルモン補充療法(HRT)が使えない方々の治療にも用いることが可能ということです。
- 4.男性の更年期障害の治療
次に、男性の更年期障害の治療についてもご説明します。
前回の記事でも、男性にも更年期障害はあることをご紹介しました。原因は、加齢に伴う男性ホルモン(テストステロンに代表されるアンドロゲン)の低下に、心理的ストレスなど複数の要因が重なっていることが多いということでしたね。
男性の方で更年期が心配な方は、まず泌尿器科を受診するのが良いでしょう。“適応障害”や“うつ病”など、メンタル疾患との見分けが必要なケースもあり、泌尿器科とメンタルの主治医同士の連携をしながら治療したほうが良い場合がよくあります。
また、どうしても身体や気持ちがつらくて仕事に手が付かないような場合は、いったんお仕事を休むことも必要になるかもしれません。その場合、泌尿器科からの“更年期障害”の診断で休職の診断書が出ることはあまり一般的ではありませんので、メンタルの主治医と相談することになるでしょう。
男性の更年期障害の治療としては、テストステロン補充療法(Testosterone replacement therapy: TRT)の効果が報告されています。適応としては、更年期症状を有する40歳以上の男性で、テストステロンの値が低下している場合となります。
- 5.まとめ
年を重ねれば、誰でも更年期を経験することになります。
更年期には、人生の転換点として、様々なライフベントが起こります。これまでのやり方が通用しなくなります。変化すること、時には諦めることに、向き合わざるをえなくなることもあります。
専門家に相談すること、治療できる症状は治療をすることで、生活の質(QOL)を向上させることが可能です。ただ、“薬で症状が抑えられれば良い”という単純なものではない場合もあります。
仕事や家庭のことで忙しくて、更年期の自分に向き合う暇もない、という方もいらっしゃるかもしれません。ただ、少し時間をとって、これまでの人生を振り返り、自分にとって大事なことは何かを考え、少しずつ体力が落ちて歳を重ねていくなかで、今後の人生をどのように過ごしていこうかと考える時間を取ってほしいと思います。
今回ご紹介した更年期障害の治療方法の中でもお話をしましたが、心と身体とは切っても切り離せないものです。
ご自身の身体の不調や日々の不安、悩みを相談できるかかりつけ医を持つということは心のケアを考える第一歩ともいえるかもしれません。
日々の生活の中で気になる症状がおありでしたら、大阪市城東区「鴫野駅」徒歩1分のけいクリニックまでお気軽にご相談ください。
参考文献
坂野 雄二(1995).認知行動療法 日本評論社
McCurry, S. M., Guthrie, K. A., Morin, C. M., Woods, N. F., Landis, C. A., Ensrud, K. E., … & Newton, K. M. (2016). Telephone-based cognitive behavioral therapy for insomnia in perimenopausal and postmenopausal women with vasomotor symptoms: A MsFLASH randomized clinical trial. JAMA Internal Medicine, 176,913-920.
日本産婦人科学会 日本産婦人科医会.産婦人科診療ガイドライン 婦人科外来編 2020.日本産科婦人科学会事務局.