こんにちは大阪市城東区鴫野駅から1分「けいクリニック」院長、精神科専門医の山下圭一です。
皆さまのなかで、子ども時代に朝礼などで立ちっぱなしの時に、倒れた経験をお持ちの方はいらっしゃいますでしょうか?
あるいは、朝起きられずに学校に遅刻する、学校に行けなくなる、というお子さんが周りにいらっしゃいますでしょうか?
これらは、“起立性調節障害”という身体の病気の症状の可能性があります。
中高生の20-30%もが、起立性調節障害の症状を経験していると言われているほど、よくみられるご病気です。
ただ、ご病気への理解がまだまだ得られていないことから、症状だけではなく、社会の中での生活のしづらさに苦しまれる患者さんも多くいらっしゃいます。
そこで今日は、このご病気について知っていただくために、起立性調節障害の原因や検査について、治療について、解説していきたいと思います。
<目次>
- 1.起立性調整障害とは
- 2.起立性調節障害の原因は?
- 3.起立性調節障害の相談はどこにすればよいの?
- 4.起立性調節障害の診断のためにどんな検査をするの?
- 5.起立性調節障害の治療と周囲の人間が気を付けること
- 6.まとめ
- 1.起立性調整障害とは
起立性調整障害では、身体を起こすことが血圧や脈拍に大きく影響してしまい、立ちくらみやめまい、立っていると気分が悪くなる、少し動くと心臓がどきどきする、などの症状が起こります。朝起きられない子や、疲れやすい子もいます。その他にも、頭痛や腹痛、食欲不振、乗り物酔いが、起立性調整障害の症状として起こりうるとされています。
思春期のお子さんによく見られ、中学生の20%前後、高校生の30%弱の方に症状があると言われています。
これらの症状は、午前中に調子が悪く、午後は回復することが多いものです。春から秋にかけて調子が悪くなりやすい、天気が悪いと調子が悪いなど、気候によって症状の程度が変わる方もいらっしゃいます。
ガイドラインでは、特徴的な症状が3つ、2つでも強い症状がある場合は、起立性調整障害の検査を行うことが推奨されています。
次のチェックリストで、強い症状が2つ、あるいはいずれかの症状が3つ以上当てはまる場合は、起立性調節障害かもしれません。
- 2.起立性調整障害の原因は?
私たちの身体は、起きるときや立ち上がるときに、血管が収縮して、上半身や脳に血液を送ろうとするのですが、この調節がうまくいかなくなると、下半身に血液が貯まるために心臓に戻る量が減り、心臓から送り出す血液の量や血圧が低下してしまいます。そうすると、脳への血流が減ってしまい、症状として立ちくらみやめまいが起こります。心臓から送り出す血液の量を補うために、心拍数は増えるため、動悸を感じます。
起立性調節障害は、身体の病気です。ただ、様々な症状のために、日常生活が影響を受け、学校に行けなくなったり引きこもりやすくなったりすることから、学校生活や社会への参加が妨げられることもあります。
また、心理的・社会的な状況も症状の出方や悪化のきっかけとして影響するので、こころの病気の側面もあります。
ただ、“気の持ちよう”や“気合い”で治るご病気ではありません。
身体の成長、生活リズムの変化、環境のストレスも影響して、思春期の頃に目立ってくるご病気です。
- 3.起立性調整障害の相談はどこにすればよいの?
中学生までのお子さんであれば、まずはかかりつけの小児科への相談が良いでしょう。
小児科を受診される中学生に限れば、20%ものお子さんに起立性調節障害の症状があると言われてますので、小児科の先生は診察に慣れているでしょう。
ご家族も、「怠けではないか?」「甘やかしてもよいのか?」と心配したり対応に悩んだりしやすいので、一番身近な専門家である小児科の先生から説明を受けるのがおススメです。
一般の小児科で4週間以上治療を受けても改善しなかったり、不登校傾向があったり、他にも精神的な困りごとを抱えている場合は、心療内科医や精神科医のような専門医や臨床心理士など心理の専門家に紹介となるケースが多くなっています。
重症になると、回復に時間がかかる傾向にありますので、早いうちから適切な治療や環境調整を行うことがとても大切です。
- 4.起立性調整障害の診断のためにどんな検査をするの?
まずは、症状の聞き取りがあります。
立ちくらみ、失神、気分不良、朝の起床困難、頭痛、腹痛、動悸、午前中に調子が悪く午後に回復する、食欲不振、車酔い、顔色が悪い、などの症状のうち、3つ以上、あるいは2つ以上でも症状が強ければ診断に近づきます。
検査としては、“新起立試験”というものを行います。まず10分間横になって安静を保ち、血圧を測ります。その後に身体を起こして、血圧が回復するまでの時間を測ります。25秒より長くかかるときに、“異常”と判断されます。
起立性調節障害は、4つのタイプがあり、
- 1.起立すると血圧が下がり、回復するのに25秒以上かかるもの(起立直後性低血圧)
- 2.起立した時の血圧低下はないが、心拍数が増えるもの(体位性頻脈症候群)
- 3.立っているときに突然血圧が下がって失神するもの(血管迷走神経性失神)
- 4.起立してから3-10分のうちに、収縮期血圧(上の血圧)が低下するもの(遷延性起立性低血圧)
に分類されます。新起立試験により、どのタイプかを判定します。
貧血や、甲状腺など内分泌のご病気でも似たような症状が起こることがありますので、除外診断のために血液検査を行うことがあります。
失神の原因が、不整脈など心臓のご病気や、てんかんなど神経のご病気の可能性があれば、24時間心電図の検査や脳波検査を行うこともあります。
食欲不振や吐き気などのお腹の症状があれば、消化器のご病気の検査をすることもあります。
日中の強い眠気があれば、ナルコレプシーなど睡眠のご病気との鑑別も必要です。
また、心理的・社会的なストレスの影響をみるために、どのような時に症状が悪化したり軽くなったりするか、1日のうちでの症状の変化はあるか、日によって違う症状が出るのか、それとも同じ症状がいつも出るのか、などについて、お医者さんから質問があるでしょう。
- 5.起立性調整障害の治療と周囲の人間が気を付けること
治療のポイントは以下の4つです。
- ① 病気について知ること
- ② 日常生活でできる工夫をすること
- ③ 学校や先生に病気について理解してもらい、連携すること
- ④ 薬による治療
- まずは、①病気について知ること、です。
症状があるお子さんの多くは、理由が分からずに不安になっています。ですから、なぜ症状が起きているかについて、お子さん自身が理解することが大事です。病気について理解することで安心が得られ、身体の調子が安定することがあります。
「気のせいではなく、身体の機能の不具合から症状が起こっている」「同じくらいの歳の子が、同じような症状で困っている、珍しいことではない」という情報も、安心につながります。
次に、②日常生活でできる工夫をすること、として、日常生活で気を付けるポイントや、症状を和らげるために役立つと言われていることをご紹介します。
まず、身体を起こすときはゆっくり行うほうが良いでしょう。30秒ほどかけるのが目安です。歩き始めるときは、頭を少し前に傾けると、失神を予防できます。
立ちっぱなしの姿勢を続けないこと(3-4分以上は続けない)や、立つときは足踏みをしたり足を交差したりすることに気を付けると、血圧が下がりにくくなります。
その他、水分と塩分を十分に摂ること、ウォーキングなどの軽い運動もおすすめです。
気温が高いと血管が拡張しやすく、汗による脱水も加わりますので、気温の高いところは避けるほうが良いです。夏場の屋外での体育の授業などは見学とし、涼しい場所で過ごしてもらいましょう。
生活リズムの整え方としては、
- ・朝起きた時に、日光を浴びる
- ・朝ごはんで塩分と水分を十分に摂る
- ・夜の寝つきが悪くならないように夕方以降睡眠は取らない
- ・日中は、だるいからと言って身体を横にして過ごさない
- ・翌朝お腹が空いて起きやすくするために夕食を軽めにする
- ・本人だけに早く寝ることを求めるよりは、家族みんなで早寝する
- 等の工夫が、効果があることがあります。
次に、③学校や先生に病気について理解してもらい、連携すること、です。
起立性調節障害の症状のために学校に行けないのに、「不登校だろう」と気持ちの問題にしないよう、注意が必要です。
ご家族や先生など周りの人間も、身体の病気であることを理解して、精神論で何とかしようとしないことが重要です。叱咤激励は逆効果です。
症状について、「怠けている」「夜更かしのせいだ」「学校に行きたくないだけだ」などと親御さんが捉えてしまうと、親子の関係性が悪くなりますし、お子さんが安心して過ごせなくなってしまいます。
体調が悪いのに無理して登校させるのは逆効果です。体調が良くなってから登校するようにしましょう。また、電車のラッシュ時間を避けることが助けになる場合もあります。
また、起立性調節障害では午後に体調が回復して登校できることもあるのですが、遅刻や欠席があることで勉強についていけなくなり、学校での居心地が悪くなると、体調が回復していても、登校のハードルが高くなってしまいます。
保健室登校や午後からの登校、ご家族の付き添いなど、安心して登校できる環境をつくりましょう。クラスメートにも病気のことを理解してもらうのが、良い場合もあります。
症状が重い場合、これまで頑張って適応しようとしたことで疲れがたまっている場合は、無理に登校せずに休養するほうが良い場合もあります。
起立性調節障害のお子さんは、周囲に気配りをして疲れてしまう傾向があるとも言われています。これまで我慢して環境に適応してきたものの、限界になって学校にいけないような場合は、登校よりも休養することが優先です。
教育関係者の起立性調節障害に対する理解はまだまだ追いついていないこともありますので、冊子や学会のホームページなどを読んでもらい、理解を深めましょう。診断書の提出がプラスになるようであれば、診断書を活用しましょう。
最後に、④薬による治療については、行うこともありますが、薬だけで劇的に改善することはあまりなく、日常生活の工夫を続けながら、“長い目で回復を見守ること”が重要です。
薬の種類としては、血管を収縮させて血圧を上げる薬や、交感神経の機能を亢進させるものを使うことがあります。自律神経の調整薬や漢方薬を使うこともあります。
先生や友人との人間関係の問題など、心理社会的なストレスがあると、上記の治療だけでうまくいかないことが多いので、カウンセリングや環境調整が必要になることもありますが、心理的な検査や治療が必ず必要というわけではありません。
まずは、身体の症状を和らげつつ、社会・心理的なきっかけがありそうであれば、関係者で連携し、専門家の手を借りながら進めましょう。
- 6.まとめ
起立性調節障害のお子さんは、症状の原因が分からない、そして診断がついてからもなかなか体調が良くならないことへの不安や焦りを抱えがちです。
まずは、「できることから少しずつ取り組めば必ずよくなる」と、身体のつらさに寄り添いましょう。
元々の症状が日常生活に差しさわりがない程度であれば、適切な治療によって数ヶ月で改善することもあります。ただ、学校に行けないほどの症状がある場合は、年単位で病気と付き合っていくことが必要になることもあります。周囲の大人が焦らないことが大事です。
まずは、周囲の人間が起立性調節障害について理解してお子さんが安心して過ごせる環境をつくり、長い目で見守りましょう。
症状がすっかりなくなる状態を目指すのではなく、“症状があっても、日常生活への支障があまりない状態”を、焦らずゆっくり、目指しましょう。
当院でも、起立性調整障害の症状がみられるお子さんや、他院で起立性調整障害と診断されたけれど症状の寛解を得られないお子さんの診療を行っています。
もしも今回の記事で取り上げたような症状が出ているにも関わらず、その理由がわからず不安に思われているのであれば、大阪市城東区「鴫野駅」徒歩1分のけいクリニックまでお気軽にご相談ください。
参考文献
日本小児心身医学会『小児起立性調節障害診断・治療ガイドライン』