コラム

2022.06.15

心身症~こころとからだはつながっている~

こんにちは大阪市城東区鴫野駅から1分「けいクリニック」院長、精神科専門医の山下圭一です。

“心身症”とは、発症や症状の程度に心理社会的な要因が関わる、からだの病気です。様々な心理社会的要因の影響で、症状が出現したり、良くなったり悪くなったりすることもあれば、心理社会的な要因が治療の妨げになることもあります。

例えば、アトピー性皮膚炎の方で、仕事が忙しいというストレスで、アトピーの症状そのものが悪くなることもあれば、忙しくて皮膚のケアが丁寧にできないことが症状を悪化させることもありえますね。

心身症と診断されるかどうかに関わらず、私たちは誰でも、こころの状態がからだの機能に影響を与えることを、実感したことがあるでしょう。

緊張した時に脈が速くなったり、手に汗をかいてしまったり、ということは誰にでもあります。ストレスのある出来事に直面して、お腹や頭が痛くなる方もいらっしゃるかもしれません。

また、心身症を疑う困った症状があるときに、“心身症か否か”ではなく、“症状に対するとらわれ”や“症状の二次的な作用”に気をつけて対処していくことが、役に立ちます。

今回の記事で心身症について知り、からだとこころのつながりを大事にしながら、対処のコツを身につけましょう。

<目次>

  • 1.心身症の原因って?
  • 2.心身症の症状はどんなものがあるの?
  • 3.心身症とメンタルの病気
  • 4.子どもの心身症
  • 5.心身症の治療
  • 6.おわりに

 

 

  • 1.心身症の原因って?

 

まず、心身症の原因とされる、“心理社会的な要因”とは何でしょうか。
心理社会的な要因とは、ライフイベント、生活の中でのストレス要因、性格傾向などです。直接的な因子と、背景となる因子に分けられます。

直接的な因子とは、症状と直接つながりのある、ストレス要因です。例えば、“苦手な上司と仕事をする日はお腹が痛くなる”ときの、“苦手な上司”が直接的な因子にあたります。
背景となる因子とは、症状とはっきりつながっているわけではなさそうですが、影響を与えているだろうと考えられるもの、例えば、我慢しやすい性格や、忙しすぎる会社の環境、人間関係で問題を抱えていること、などを指します。

例えば、頭痛に悩むAさんのケースをみてみましょう。
Aさんは30代の女性です。夫と3歳のお子さんと3人で暮らしています。子育てをしながらフルタイムで働いている、ワーキングマザーです。ご両親は他県に住んでいて、気軽に頼れる距離ではありません。
もともと、疲れた時に頭痛が起きることがありましたが、薬を飲むほどのひどさではありませんでした。たいていの場合は、一晩寝れば治っていました。

ところが、ここ2年、リモートワークをする日が増えたことに加えて、感染症で保育園が休園になり、自宅で子どもの面倒をみながら仕事をしなければならない日が増えました。夫はリモートワークができない仕事に就いていることに加えて、いつも忙しく、前もって申請しておかないと休暇をとるのが難しい職場です。
Aさんは頑張り屋の性格でもあり、忙しい夫や遠くに住むご両親にも相談できず、睡眠時間を削って、仕事と子育てを頑張っていました。

しかし、仕事に集中しているAさんの近くにいてお子さんが不機嫌になってしまったり、子育てに時間を取られているうちに仕事の締め切りに間に合わなかったり、ケアレスミスをしてしまったり、ということが続いてしまいました。
Aさんは、何とか遅れを取り戻そうと、お子さんを寝かしつけてから仕事をすることにしました。しかし、その分睡眠時間が短くなり、頭痛の頻度が増えてしまいました。痛み止めで対処しているうちに、毎日頭痛が起こるようになりました。

Aさんの場合、
・仕事と子育ての両立
・感染症のまん延
・夫が忙しい/休みを取りづらい
・両親が遠くに住んでいる
というような背景因子がありますが、

これに、
・保育園が休園になった
・自宅で子どもをみながら仕事をしなければならない
・睡眠時間を削って仕事に対応せざるをえなかった
という直接因子が加わって、頭痛が悪化したと言えるでしょう。

このように、心身症の原因となっている可能性のあることがらについて、背景因子と直接因子に分けて、対処できるものに対処していくことが、解決のための一歩です。

 

 

  • 2.心身症の症状はどんなものがあるの?

 

代表的な心身症としては、頭痛、高血圧、過敏性腸症候群、アトピー性皮膚炎、慢性じんましん、などがあります。
症状としては、頭痛や腹痛など痛みに関する症状、息苦しいなど呼吸に関する症状、胃のむかつきや便通など消化管に関する症状、皮膚に関する症状、などです。どのような症状が出てもおかしくはありません。
高血圧や片頭痛のように診断名がつくものもあれば、病院を受診して検査を受けても、「症状を引き起こすような身体の異常はなさそうです」となる場合もあります。
ここで、検査で異常がないというのは、一つの安心材料ではあります。

他にも、重大な病気でない可能性が高い場合の特徴としては、
・症状の程度や場所が移動する
・曜日や時間によって症状の程度が変わる
・仕事を休むなど、ストレスから離れると症状が軽くなる
ということがあります。
ただ、検査で異常がない場合、実際に症状があるのに原因が分からない不安に加えて、「気の持ちよう」と片づけられてしまって余計につらくなる患者さんも多いものです。検査で異常がないからといって、症状が楽になるわけではありません。逆に原因が分からないという不安を抱え続けることもあるのです。

さらに、心理社会的要因に関連して腹痛や過換気のような症状を経験すると、「また症状が出るかもしれない」という不安(予期不安といいます)を抱くようになり、そのせいで、体調に対してより過敏になってしまい、症状の頻度が増えてしまうことにつながる、という悪循環に陥ってしまうこともあるのです。

そこで、症状を和らげながら、症状へのとらわれを軽くすることが、治療の第一歩となるのです。

 

 

  • 3.心身症とメンタルの病気

 

心身症とメンタルの病気、特に、うつ病とパニック症/パニック障害、自律神経失調症、は、区別が難しいとされています。

まず、うつ病の患者さんの多くは、抑うつ気分や意欲の低下などのメンタルの症状以外に、食欲低下や痛みなどの身体の症状を伴うことがあります。
次に、パニック症/パニック障害においても、動悸や発汗、息苦しさ、胸の痛み、めまい、息苦しい、など、様々な身体の症状を伴います。
そして、自律神経失調症とは、倦怠感や動悸など、身体の症状があるものの、検査をしても原因がはっきりしないときにつくご病名です。自律神経が司る、循環、呼吸、体温の調節、消化、発汗、などのバランスが崩れて、動悸、息苦しさ、だるさ、めまい、しびれ、手足の冷えなどの様々な症状が現れます。

上記の症状に対しては、内科や整形外科などを受診されることになるでしょうが、検査を受けても異常がないと、「気の持ちようですね」となり、「精神科にかかってください」と言われることが多いようです。

心身症の場合でも、眠れない、気分が落ち込む、あるいはある種の痛みに対して、睡眠やうつのお薬を使うことで良くなることも多いです。
日本心身医学会の定義によると、うつ病に身体の症状を伴っている場合は、厳密には心身症ではないということなっていますが、上記に述べたような、心身症とうつ病、パニック症/パニック障害、自律神経失調症、などの症状については、からだとこころを切り分けて考えるよりは、“心身一如”、“全人的”な観点でみていくことが良いでしょう。
メンタルのご病気なのか心身症なのか分からない場合は、心療内科と精神科の両方を標榜している医療機関にかかるのが良いでしょう。

心理社会的な面も含めて相談にのってくれる、プライマリケアや総合診療の専門の医師にかかるのもおすすめです。

 

  • 4.子どもの心身症

 

子どもの心身症としては、アトピー性皮膚炎、気管支喘息、起立性調節障害、不登校、摂食障害、痛み、が多く見られます。
身体の症状に加えて、情緒的な反応や行動面の変化も同時に起こりやすいため、全人的な視点がより大切になります。
例えば、身体の症状がつらくて学校に行けないことがあると、次に登校する時のことや、友人とのやり取りが大丈夫かなど、不安になってしまい、登校すること自体がストレスとなり、そのストレスでまた症状が出る、という悪循環に陥ります。

子どもの心身症を疑う症状に対しても、身体の検査は必要です。
そして、検査で異常がない場合のとらえ方も重要です。「自分のこころが弱いからなのでは」とお子さんが自分を責めることが無いよう、気を配りましょう。 

子どもの場合、学校や家庭の環境(心理社会的要因のうちの背景因子)を自分で何とかすることが、大人の場合よりも難しいことがほとんどです。また、知的障害や発達障害との関係性についても、留意する必要があります。
理解できる年齢のお子さんに対しては、「こころとからだはつながっていること」を説明し、症状とうまく付き合い不安にとらわれないことを意識しながら、生活への影響をやわらげられるよう、周囲がサポートしましょう。

子どもの心身症については、まずはかかりつけの小児科医の先生に相談してみましょう。
“こころ”の面を重視しすぎて、いきなりカウンセリングを始めるよりは、長く診てもらえるかかりつけ医と、学校や家庭のことも含めて話し合うことが、治療の第一歩です。

 

 

  • 5.心身症の治療

 

まず、治療について考えるとき、身体の病気が隠れていないかを調べることが必要です。
ストレスがきっかけで症状が出たり、悪くなったりするからといって、すぐに「ストレスが原因」と決めつけないことです。
また、身体の病気ではなく心身症の可能性が高い、となった場合でも、「気のもちようだから」と症状に対して何もしなくてよいわけではありません。薬で症状を抑えることで、症状が気分や生活に影響することを減らせることもあります。

心身症に対して使われる薬は、いくつかあります。
まず、痛みに対しては、一般的な鎮痛薬が用いられることが多いでしょう。また、パニック発作や息苦しさに対しては、不安を和らげる薬(抗不安薬)が症状を軽くしてくれることもあります。
睡眠がうまく取れないことで、身体の症状が悪化してしまう場合は、睡眠の薬を使うこともあります。
ただ、上記のような症状を抑えるという薬の使い方は、薬がないとやっていけなくなる(依存)、だんだんと聞きが悪くなる(耐性)などのリスクもあり、いつまでも使い続けるのは避けたほうが良いでしょう。
ある種の頭痛については、鎮痛薬を常用することが頭痛を引き起こす原因になるとも言われています。

次に、症状があること自体の苦痛だけでなく、症状へのとらわれが強くなることも問題だ、という視点を持つことが大事です。症状にとらわれている部分を主治医と話し、対処していくことで、症状に伴って起きる不安やつらさとの付き合い方が上手になることもあります。
誰でも、身体の症状があると、頭の中では症状のことばかり考えてしまいますが、症状以外のことに注意を向けて、趣味などの楽しめること、仕事などご自身にとって大事な活動を増やしていくことが役に立つでしょう。
薬以外の対処法も身につける、原因となっていることの解決を図る、というふうに、複数のアプローチを組み合わせるのがうまくいくコツです。

どのような症状が出ているのか、その症状によって日常生活のなかでどのような困りごとが起こるのか、にもよりますが、症状に注意を向けすぎるよりも、日常生活の困りごとを減らすことを目指すのがおすすめです。
これは、患者さんご本人にも、ご家族にも、治療者にも、あてはまることです。

 

  • 6.まとめ

 

現代社会は、ストレス社会と言われています。
仕事の上では、柔軟に素早く対応することや、コミュニケーション能力、マルチタスクなど、より高度な働き方を求められるようになっています。
一方で、キャリアは多様化し、不安定さは増しています。核家族が増え、困った時に頼れる人が昔に比べて少なくなっている方が多いといえるでしょう。
このように、心身症の原因となる背景因子が増えていると言っても過言ではありません。

こころとからだはつながっていて、様々な症状を引き起こします。身体の症状は、ストレスに対するアラームのようなものです。無理して何とかしてきた、一人で頑張ってきた、というこれまでのパターンを変える必要があるのだと、教えてくれているのかもしれません。

つらいときは、無理をしないこと、抱え込まないこと、誰かに頼ることが大事だと言えますね。
いつもと違う心身の不調を感じたとき、理由がわからず不安に思われているのであれば、大阪市城東区「鴫野駅」徒歩1分のけいクリニックまでお気軽にご相談ください。

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参考文献

日本小児心身医学会『小児心身医学会ガイドライン集』
日本心身医学会教育研修委員会編.心身医学の新しい診療 指針.心身医学.1991; 31: 537–76