発達障害は、脳の機能異常などによって起こる生まれつきの障害です。そのため、大人になってから発達障害にかかるということはありません。
しかし、長年ご自身の症状や特徴に気づかない、あるいは何となく違いに気づいていたけれどさまざまな理由によって受診が遅くなってしまったケースなど、大人になってから発達障害と診断されることも少なくありません。
発達障害の中には症状や特徴が比較的軽度のものもあり、大人になって特に仕事をするようになってから問題に直面し、受診される方も多くおられます。
少しでも気になったとき、また周囲からの指摘を受けた場合には、ぜひ一度ご相談ください。
自閉スペクトラム症
家庭、職場などでコミュニケーションの難しさを感じたり、周囲から見れば些細なことがいつまでも気になって作業が進行しない、といった特徴を持ちます。
まわりの人からは、段取りが悪い、こだわりが強い、暗黙のルールや常識をいちいち言葉にして伝えなければならないというように見られます。
ADHD (注意欠陥多動性障害)
1つの場所でじっとしていられない、相手の感情を考慮しない発言・行動をしてしまうなどの「多動性・衝動性」、あるいは忘れ物が多い、整理整頓ができない、ケアレスミスを多発するなどの「不注意」の傾向が見られます。
まわりの人からは、落ち着きがない、相手の気持ちを考えない、だらしない、計画性がないといったように見られます。
学習障害(LD)
知的に遅れはないが、文章を理解したり、見たりきいたりしたことを処理する能力に問題があり、結果的に読み・書き・計算などが苦手と評価されてしまうのが学習障害です。
子供の頃は「少し勉強ができない」というように認識されて受診に至らず、仕事でより複雑な課題に直面したときに障害が明らかになるケースがよく見られます。
学習障害の原因
脳の部分的な機能障害によって、文章を理解したり、見たりきいたりしたことを処理する能力の発達が障害されているのではないかと言われていますが、詳しいことは未だ分かっていません。
学習障害の症状や特徴
読字障害
文字を正確に把握できない、声に変換することができない、本や書類を読むことが難しい、音読みと訓読みの使い分けができないなど、読字にかかわる症状を伴います。
書字障害
文字を正しく書けない・写せない、文字を思い出すのに時間がかかる、書き順が覚えられないなどの書字にかかわる症状を伴います。
算数障害
簡単な数字や計算が理解できない、図形・グラフなどを理解できないなど、算数にかかわる症状を伴います。
学習障害の診断
最新の診断基準(DSM-5:「精神疾患の診断・統計マニュアル 第5版」)では、以下の1つ以上の項目に当てはまること、それ以外にも心理検査や診察の結果から総合的に判断して学習障害と診断されます。
- 文字や単語、文章を読むときに正確でなかったり速度が遅かったりする
- 単語を読み間違えたりためらいながら読み上げる
- 当てずっぽうで読むことがある
- 発音が正確でない
- 読んで意味を理解することが難しい
- 文章が正確に読めていても文章に登場するものの関係性や意味の理解ができていない
- 文字を書くことが難しい
- 文字の一部分を付け加えたり、入れ忘れたり、置き換えたりすることがある
- 文章を書くことが難しい
- 文法や句読点を複数間違える
- 段落ごとに内容がうまくまとまっていない
- 伝えたいポイントが明確でない
- 数の概念、数値、計算を学ぶことが難しい
- 数字やその大小、関係性の理解が弱い
- 1桁の足し算を暗算でなく手の指を折って数える
- 計算の途中で迷ってしまい別の方法に変える
- 数を使って推論することが難しい
- 数量の問題を解くために数学の概念や事実、方法を使うことが大変難しい
学習障害の治療法、処方薬
ASDやADHDを合併している場合には、その治療によって学習障害が改善されることがあります。
その上で、一人一人に合った学習障害に対するトレーニングを行います。文章を読むのが難しい方はカラーバーを使用する・家族や職場の仲間にマーカーを引いてもらう、文字を書くのが難しい方はタブレットやパソコンを使用する、計算が難しい方は逐一周囲に確認をとる、といった対処法もあります。
このようなご家庭・職場で必要になるサポートについても、一緒に考えていきましょう。
知的障害を伴うことも
発達障害に知的障害を伴うケースも存在します。知的障害は、知能検査でのIQが70を下回り、かつ社会生活において支障をきたしている場合に診断される障害です。
障害の重なりが疑われる場合には、より慎重な検査・診断・治療・支援が必要になります。
知的障害の原因
ダウン症候群などの染色体の異常、フェニルケトン尿症のような代謝異常、周産期障害、脳の疾患(水頭症、脳腫瘍等)など原因が特定できる病理的原因によるものもありますが、これらに当てはまらない原因不明の知的障害も少なくありません。
知的障害の程度とその特徴
症状の程度によって、以下のような特徴が見られます。
軽度
- 暗算、おつりの計算が苦手
- 計画を立てることが難しい
- 物事の優先順位をつけられない
- 抽象的な思考、読み書きが難しい
- 言葉の使い方が未熟
- 支援があればうまく自立できる
中等度
- 大人になっても学習技能が小学生程度
- 社会的な判断、意思決定が難しい
- 暗黙のルールを理解できない
- 支援があれば自立が可能
重度
- 文字、数字の理解が難しい
- 時間、金銭の管理が難しい
- その場の状況についての簡単なコミュニケーションは可能
- 生涯にわたって、食事・生活の支援が必要
最重度
- 限定的な身振り、手振りでのコミュニケーションは可能
- 生涯にわたって、ほぼ全面的に、周囲からの指示・支援が必要
知的障害の診断
知能検査でIQが70を下回り、社会に対する適応能力に制限がある場合に知的障害と診断されます。
ただし、その症状が発達期に現れている場合に限られます。
知的障害の治療法、処方薬
現在のところ、知的障害そのものに対する治療薬はありません。
ただし、適切な支援が導入されることで日常生活の困りごとを改善したり、就労に結び付くことは可能です。
また知的障害に伴った様々な症状に対して薬物療法が適応になることがあります。
発達障害の二次障害を起こさないために
発達障害によって社会や人に馴染めないことから、うつ病などの精神疾患、睡眠障害などの二次障害が起こるケースも少なくありません。
二次障害が起こると、社会的にも、心身の健康の面でも、さらに良くない状況へと陥ります。ご自身のお悩み・症状で気になることがある、家族が発達障害かもしれないと感じたときには、お早目にご相談ください。
大人の発達障害Q&A
子どもの時には気づかず大人になってから発達障害と診断されるのはなぜでしょうか?
発達障害特性にはその症状の程度によって発達障害特性が薄い人から濃い人まで連続性があります。また発達凸凹+生活障害=発達障害とも言われており、その人に適した場所で生活していれば日々の困りごとは出現しないかもしれません。
また発達障害特性は負荷が多くなった時に出現しやすくなります。
大人になって発達障害と診断されるのは元々の発達障害特性がそこまで濃くなく、それまで生活に適応してきた人たちなのです。そういった方が環境変化や日々の負荷が多くなることを契機に生活障害を来した時に発達障害特性がより分かりやすくなります。
夫が発達障害かもしれません…。クリニックに受診してみてほしいのですが、どのようにして伝えるべきでしょうか?
どのようなことでお困りでしょうか?と伝えると傷つける、嫌がられるなどの心配があるのであれば困っている部分を責めるのではなく「~に関して私は心配している」とアイメッセージで伝えてみてはいかがでしょうか?
また一緒に受診していただければ医師からお伝えするなどお手伝いすることも可能かと思いますので、一度ご相談いただければと思います。。
発達障害のグレーゾーンとは?
発達障害特性は上記にも書いたように連続性をもっているので、ここから発達障害とクリアカットに診断するのが難しいケースがあります。その際に発達障害のグレーゾーンという言葉が使われることがあります。診断名は重要ですが、診断名にこだわらず生活上の困り感や発達特性に応じて適切な支援が導入されることが最も大切だと考えています。
当院では心理検査などを実施した上でその方に必要なアドバイスや支援に繋がるような医療を提供していくことを心がけています。