子供は、大人に褒められることによって自信をつけ、成長していきます。しかしそれはあくまでその環境における周囲からの評価ですので、「元気な子」が“うるさい”、“落ち着きがない”と叱られたり、「真面目で人の話をよくきく子」が“覇気がない”、“可愛げがない”と嘆かれることも、往々にして起こり得ます。
一見正しいしつけのつもりであっても、お子様にとってはどうしようもない、すぐに直しようのないことで、こころに大きな傷を負ってしまうことも少なくありません。
当院の児童思春期外来では、児童精神や大人の発達障害などについて学んだ院長が、幼児期から思春期にかけてのこころの問題の治療・改善・支援を行っております。
必要に応じて、他医療機関、心理師と連携して診療を進めて参ります。
不登校
児童精神科においてもっとも多いお悩みが、お子様の不登校です。
専門的には、心理的・情緒的・身体的・社会的要因によって登校をしたくてもできず、年間30日以上を欠席した場合を不登校と定義します。もちろん、経済的な理由や病気療養のための欠席はここには含まれません。
不登校になる原因と対処法
不登校の原因は、1つとは限りません。また、お子様ご本人がその原因を理解しているとも限りません。ですので、無理に問いただすようなことはおやめください。「なんとなく行きたくない」というケースも、事実として存在するのです。
ここでは、比較的よく見られる原因やその特徴、対処法をご紹介します。
無気力
「子供なんだからやる気に満ちていて何にでも興味を持つ」ということはありません。小学生~高校生の不登校の生徒のうち、20~30%が「無気力」をその原因に挙げているのです。
勉強や部活を頑張って燃え尽きてしまった、苦労して入学した学校がイメージと違ったといったときに、無気力状態に陥りやすいと言われています。
無気力を原因として「学校に行きたくない」とお子様が言ったとき、または登校があまりにも辛そうなときには、無理をせずに休ませてあげてください。このとき注意が必要なのが、自室にこもってゲームやネット、漫画などにふけって引きこもり状態になってしまうことです。無気力が加速し、復学、さらには社会復帰が難しくなることもあります。
できるだけ家族と同じ生活リズムで生活を送りましょう。家族と一緒に出掛けたり、買い物を頼むのも良いでしょう。
学校でのトラブル
学業不振、いじめ、クラス・部活動が合わない、嫌いな先生がいる、友達との喧嘩など、学校でのトラブルもよく見られる不登校の原因です。
学業不振で悩むということは、「成績を上げたい」と思っているケースが大半ですので、保護者様が教えてあげたり、個別指導の塾を利用したりするなど、お子様に合った方法でサポートしましょう。
それ以外のトラブルについては必要に応じて学校との連携を図り、お子様ご本人の意志も尊重しながら改善策を検討していきましょう。
家庭環境
離婚、リストラ、生活困窮なども、不登校の原因になり得ます。ただ大半は、そういった家庭環境によってまず保護者様がピリピリとし、それがお子様に伝わってストレスが大きくなり、不登校につながってしまうケースです。
親が子に心配をかけまいと、子が親に迷惑をかけまいと遠慮しあい、気持ちがすれ違ってしまうこともあります。
保護者様はお子様にどうしてほしいのか、お子様は自分がどうしたいのか、ゆっくりと話し合ってみるのが良いでしょう。
発達障害
同級生が簡単に理解する文章が理解できない、問題が解けない、特定の教科の成績が著しく低い、友達とうまく遊べないといった特徴が見られる場合には、発達障害を疑う必要があります。
知的な能力には問題がないのに、コミュニケーションがうまくいかないというケースでは、発見が遅れがちになります。
勉強をさせよう、友達とうまく遊ばせようと無理をすると、お子様も保護者様も疲れ切ってしまいます。専門の医師やカウンセラーに相談し、担任の教師と連携しながら持続的な支援をしていく必要があります。
神経症
過剰なこだわり、原因不明の不安、気分の急激な落ち込み、対人恐怖症など、精神的なストレスによってこころに起こる症状を総称して、神経症と言います。
精神疾患の初期症状であるケースも見られますので、まずは医師に相談されることをおすすめします。
うつ病
かつてうつ病は大人のみの疾患と考えられてきましたが、早期発症すなわち子供にもうつ病が存在することが現在は知られています。大人と診断基準が少し異なり、抑うつ気分という症状に関しては「子ども・青年の場合はイライラ感でもよい」であったり食欲不振、体重減少の症状に関しては「子どもの場合は、予測される体重増加がない場合でもよい」などの特徴があります。
原因
家庭環境、学校や職場での人間関係、大きな失敗、学業不振、生活習慣、失恋、脳の内因的な問題など、さまざまな原因が複雑に絡み合って発症します。
原因を決めつけてその解決さえすれば治る、というものではありません。一人一人に合った、柔軟な対応が必要になります。
症状や特徴
- イライラ、不安
- すぐに涙が出る
- 友達・家族など大切な人を避けてしまう
- 日常生活が面倒に感じる
- 自分を責めてしまう、情けなく思う
- 強い孤独を感じ、悲しくなる
- 生きていても仕方ないと思う
- 幸せになれないと感じる
- 睡眠障害
- 何もしていないのに身体が疲れている
治療法
十分な休養は絶対に欠かせません。ただしその間も、できるだけ規則正しい生活リズムを守るようにしましょう。
大人の場合であれば抗うつ剤の服用も有効ですが、子どもの場合薬物療法はファーストチョイスではありません。まずその子がどんな状況にあるか理解した上で環境調整などを行っていきます。(お子様への抗うつ剤の効果についてはさまざまな見解があり、未だ議論が決着していません)。
その他、不眠、不安、イライラなどを軽減するお薬を使用することもあります。
発達障害(自閉スペクトラム症、ADHD、学習障害、知的障害)
発達障害とは親の育て方によらない生まれつきの発達の偏りを有する疾患です。
生まれつきの発達特性を有することで様々な生活上の困りごとが出現することがあります。できるだけ早期に発見し支援や治療につなげることで予後がよくなると言われています。
お子様の発達に関し気になることがあれば、お気軽にご相談ください。
自閉スペクトラム症(広汎性発達障害、アスペルガーなど)
広汎性発達障害、アスペルガー症候群などは、広い意味での自閉症スペクトラム症に含まれる発達障害です。
原因
根本的な原因は未だ解明されていませんが、さまざまな遺伝的要因が複雑に絡み合って起こる、脳の機能障害が関わっているのではないかと言われています。
なお、生後の育て方や環境が原因となることはありません。
症状や特徴
コミュニケーションや社会性の障害、こだわりなどのほか下記の症状を認めます。
- 人とのコミュニケーションがうまくいかない
- 相手の気持ちを理解できない
- 物事に対する強いこだわりがある
- 急な予定の変更にうまく対応できない
- 音、光、温度などに敏感、あるいは鈍感
治療法
診察を通して、お子様の特徴を把握します。その情報を保護者様や学校の先生と共有した上で、生活しやすい環境を整えたり、社会サービス・サポートのご案内をします。
保護者様には、普段のお子様との接し方についてもアドバイスいたします。
また必要に応じて薬物療法などに関しても相談することが可能です。
ADHD(注意欠陥多動性障害)
多動性・衝動性・不注意などが認められる発達障害です。
原因
詳しいことはまだ分かっていませんが、前頭前野を含む脳の働きの偏り、神経伝達物質の機能不全などが関係しているのではないか、と言われています。
なお、生後の育て方や環境などが原因になることはありません。
症状や特徴
不注意、多動性・衝動性などの症状を認め、下記のような特徴を有します。
- 1つの物事に時間をかけて取り組んだり、1つの場所に居続けることが難しい
- 状況を考えずに、場にそぐわない発言・行動をしてしまう
- 相手の感情を考慮しない発言・行動をしてしまう
- 計画を立てる前にすぐに行動に移してしまう
- 何かを我慢しているときに、まわりの目を気にせず貧乏ゆすりをしてしまう
- 忘れ物、約束を忘れることが多い
- 整理整頓が苦手
- 私物を頻繁に紛失する
- テストでのケアレスミスの多発
- 時間の管理が苦手、登校時間や待ち合わせに間に合わない
治療法、処方薬
ADHDの治療としては心理社会的療法を実施した上で生活上の困りごとが多い場合に薬物療法が実施されます。
心理社会的療法として環境調整や診察の中で生活上の困りごと関して相談していきます。
また集中力・注意力の維持、多動性・衝動性の抑制する薬物療法も行います。
カウンセリングによってお子様の特徴を把握し、コミュニケーションや物事の適切な段取りを身につけるトレーニングをするのも有効です。
学習障害
読む、書く、計算をする、推論をするといったことが極端に苦手な障害です。
原因
生まれつきの脳の機能的な問題によって、視覚での認知が難しかったり、脳がうまく処理できなかったりといった症状・特徴が現れます。
症状や特徴
- 読字障害
目で見た文字を把握し理解することができない、声に変換できない、文章を目で追えない(どこを読んでいるか分からない)、音読みと訓読みの使い分けができないなどの症状を伴います。 - 書字障害
文字を書けない、文字を写すことができない、鏡文字になってしまう、書き順が覚えられないなどの症状を伴います。 - 算数障害
簡単な数字の理解ができない、筆算での繰り上げ・繰り下げができない、文章問題・図形・グラフなどを理解できないといった症状を伴います。
治療法、対処法
診察により特徴を把握し、学習が少しでも楽になるように環境を整えたり、必要な支援のご案内をします。ADHDを合併している場合などは、お薬の処方をすることもあります。
知的障害
理解力、記憶力、コミュニケーション能力などに発達の遅れがあり、そのことによって日常生活において困難がある障害です。
原因
ダウン症候群などの染色体の異常、フェニルケトン尿症のような代謝異常、周産期障害、脳の疾患(水頭症、脳腫瘍等)など原因が特定できる病理的原因によるものもありますが、これらに当てはまらない原因不明の知的障害も少なくありません。
症状や特徴
- 知的な発達がゆっくりと進む
- 服を着る、ボタンを留める、靴紐を結ぶといった作業の習得に時間がかかる
- 勉強や日常生活において、難しい内容を理解できない
- 計画を立てて実行することが難しい
- 友人との会話でうまくやりとりができない
- 言動が年齢より幼く見える
- 食事や身支度に時間がかかる
治療法、対処法
診察によりお子様の特徴を把握し、お子様との接し方をアドバイスします。また、必要となる社会的支援をご案内します。学校での対応についても、保護者様と一緒に考えていきます。
起立性調節障害
立ち上がったときに低血圧、心拍数上昇に見舞われ、立ちくらみなどの症状を起こす障害で、朝の起床困難などの原因にもなります。
原因
自律神経の機能がまだ完全ではないことや、遺伝などが関係しているのではないかと言われています。
症状
以下のような症状が、午前中に強くなるケースがよく見られます。
- 立ちくらみ
- ふらつき
- 目まい
- 朝起きるのが辛い
- 食欲不振
- 倦怠感
- 動悸
治療法、対処法
血液量を増やすため、水分摂取量や塩分摂取量を増やすなども効果的です。
また、日中に横になったり、長時間立ちっぱなしということは避けなければなりません。起床後に日光を浴びて身体をリセットすること、適度な運動をすることも重要になります。自律神経が調整され、症状の軽減が期待できます。
場合によっては血圧を上げる薬など、薬物療法も適応となってきます。
チック症・トゥレット症候群
突発的・反復的に急速な運動または発声をすることを「チック」と言います。
チックは運動チックと音声チックに分けられ、特にこの両方が1年以上続く状態を「トゥレット症候群」と言います。
原因
主な原因は、先天的な脳の脆弱性です。生後の育て方などを原因として発症することはありません。ただし、精神的なストレスによってその症状がひどくなることはあります。
症状
チック症は、そのタイプによって症状の現れ方が異なります。
- 単純運動チック
ぱちぱちと瞬きを繰り返す、顔をしかめる、首を傾げる・振る、白目をむく、うなずく - 複雑運動チック
身体を後ろに反らす、飛び跳ねる、拍手をする、地団駄を踏む、屈伸をする - 単純音声チック
「んんん」という意味をなさない声を発する、鼻すすり、咳払い、奇声をあげる - 複雑音声チック
同じ言葉を繰り返す、汚い言葉を口にする、オウム返し
治療法、処方薬、対処法
多くの場合で1年以内に改善が見られますので、経過観察が基本となります。
ただし、お子様や保護者様の日常生活に支障をきたすほど症状が強く現れている場合には抗精神病薬を使うこともあります。薬物療法は症状を診ながら減量、中止などについて相談していきます。
分離不安障害
お母さん・お父さんや自宅など、愛着のある対象から離れることに強い不安が生じ、また長く持続することを指します。
0~1歳頃まではどのお子様にも見られますが、2~3歳頃には、両親も自宅も「また戻ってくるもの(帰るもの)」と学習し、症状は治まります。思春期まで分離不安障害が持続するケースも稀に見られます。
原因
不安を発現しやすい素因と、生活上の変化やストレスなど環境要因との相互作用で発症すると言われている。家族や親族、ペットとの死別、両親の離婚、引っ越しやそれに伴う転園・転校などによって抱えたストレスが引き金になって発症することもある。
症状
一時的なものだと分かっていても、お母さんやお父さん、自宅などから引き離されるときに強い苦痛を感じます。その苦痛で涙を流したり、叫んだり、しがみついたりと、お子様によってさまざまな行動で表されます。
また、強いストレスから腹痛などの症状を伴うこともあります。
治療法、処方薬、対処法
分離不安障害の対象(両親、自宅など)から離れる時間を短くし、叱りつけたりせずに根気強く対応することが重要となります。保護者様、医師、担任の先生と協力してサポートしていきましょう。
症状が強く現れる場合には、薬物療法よって不安を和らげることもあります。
緘黙症
緘黙(かんもく)症とは、不安障害の一種です。家庭や学校でまったく喋らない「全緘黙」と、家庭では喋るけれど学校では喋らないといった特定の状況で声を出せない「選択性緘黙」に分けられます。
原因
先天的な素因、環境、言葉の遅れなどの要因が複雑に絡み合って起こると言われています。
症状
家庭や学校で声を出さないのが、基本的な症状です。家族など特定の信頼できる人とは話せるけれど、学校に行くと急に喋らなくなるケースもあります。症状の現れ方は、場所というよりも、話す相手や自分の声が届く人がどれくらいいるか、という周囲の環境によって左右されます。
治療法、処方薬、対処法
「喋らなくてもいいんだよ」と伝え、そのような安心できる環境を作ってあげることが大切になります。そのため、学校との連携も不可欠です。
不安が強い場合には、不安を軽減するお薬を使用することもあります。また、箱庭療法などが効果的なこともあります。
睡眠障害
寝つきが悪い、睡眠が浅い、夜中に何度も起きるといったことで睡眠の質が低下している状態を睡眠障害と呼びます。
原因
ストレスや発達障害、統合失調症などに起因して起こることが多くなります。また単純に、生活のリズムが乱れているために睡眠の質が低下しているケースも少なくありません。夜遅くまでゲームをする、スマホをいじるといったことにも注意する必要があります。
症状
- 眠れない(不眠症)
- 睡眠時間をしっかり確保しているのに日中眠い(過眠症)
- 朝起きれない
- 夜中に何度も目を覚ます
- 集中力の低下
- 無気力
不眠症
生後6カ月以降も夜泣きが続く、ぐずって眠らないといった様子が見られる場合には、不眠症を疑います。
治療法、処方薬
まずは適切な睡眠が確保できる状況(生活リズム・環境)であるかをチェックし、改善します。就寝2時間前からはカフェインの摂取も控えましょう。
その上で、お薬を使って症状を軽減することもあります。
過眠症
夜間に十分に睡眠をとっているはずなのに、日中に強い眠気に襲われる状態です。特に子供のころは、集中力の低下、倦怠感、無気力などの症状にばかり大人の目が向かい、その裏に過眠症があることが見過ごされているケースが少なくありません。
治療法、処方薬
不眠症と同様、夜間に適切な睡眠がとれる環境を整えることが重要になります。
必要に応じて、お薬による治療もいたします。
概日リズム睡眠-覚醒障害
私たちの身体は、明暗などのまわりの環境、これまでの生活リズムなどによって、いわゆる“体内時計”を設定しています。体内時計は約25時間で1周しますが、朝に日光を浴びることなどで24時間に調整されています。このことで、夜には眠くなる・朝には目が覚める、ということを繰り返すことができるのです。
ただ、お仕事の勤務体制や遊びによる夜更かしで体内時計が乱れると、夜になっても眠くならない、朝に目が覚めない、日中に眠くなるなどの症状をきたすことがあります。これを「概日リズム睡眠-覚醒障害」と呼びます。
概日リズム睡眠-覚醒障害は、大きく以下の5パターンに分けることができます。
交代勤務などの昼夜が逆転するような生活による睡眠障害
夜勤と日勤が繰り返される、夜勤だけれど休日には日中に活動するといったことを原因とします。
夜間の不眠、日中の強い眠気、慢性疲労などの症状を伴います。
睡眠相後退症候群
朝日を浴びない、あるいは夜中に強い光を浴びることで、体内時計が遅れてしまうことを原因とします。
夜間の不眠、明け方に眠り夕方に起きるなどの生活リズムのさらなる乱れ、慢性疲労などの症状を引き起こします。
睡眠相前進症候群
高齢者によく見られます。体内時計が早く進んでしまうタイプです。
陽の沈まないうちから眠くなったり、明け方に目が覚めてしまったりといったことが起こります。
非24時間概日リズム睡眠障害
長期休み期間中の昼夜逆転生活の後に起こりやすいタイプです。
朝日を浴びても体内時計がリセットされず、眠くなる時間、目が覚める時間が遅れていきます。
不規則睡眠
脳梗塞を起こした方などによく見られるタイプです。
体内時計の調整・リセットがうまくいかない身体の状態に加え、覚醒や睡眠を促す社会的接触が少ない環境が、発症・悪化の原因になります。
夜間の不眠、日中の強い眠気、習慣的な昼寝などの症状・状態を引き起こします。
治療法、処方薬
まずは適切な時間帯に入眠しやすい環境を整えることが大切になります。夕食を早めに摂る、寝る前はパソコンやスマートフォンを使用しない、ぬるめの湯船にゆっくり浸かるといったことで、“眠る準備”を整えます。
必要に応じて、体内時計を整えるために「薬物療法」などにも取り組みます。